歴史の途中で大きな書き換えが生じていた

ところが秦代(紀元前221年~紀元前206年)以降「●」が淘汰され、「四」のみが残ることとなりました。

※●=横線を縦に4本

詳細は省きますが、1から9を表す漢数字のうち、「一」から「三」及び「五」から「九」は甲骨文の時代から現代まで、基本的に同種の文字を使い続けています。

「一」から「三」は数え上げ形式によって成立した文字で、「五」から「九」は発音の近接性を媒介とした仮借によって成立した文字です。

ところが「三」と「五」に挟まれた4にのみ、ここまで見たように、歴史の途中で大きな書き換えが生じ、西周時代までは数え上げ形式による「●」を用いていましたが、春秋時代以降、一転して仮借によって成立した「四」を用いるようになりました。

「●」が使われなくなったのは、それが何本の線か――3本なのか、4本なのか、はたまた5本なのか――直観的に判断しにくいためだとかねてより考えられていましたが、実はその裏には人間の認知能力が大きく関わっていることが、近年の研究から明らかになりました。

1から5の立体的な数字
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認知科学の研究で判明

近年の認知科学の研究では、人間は直観的には3または4の数量までしか認識できず、それ以上の数量を正確に把握するには、言語における数詞(つまり数の名前。「ご」「ろく」「しち」など)が機能的役割を果たしていると考えられています(※2、※3)

※2 ケイレブ・エヴェレット(屋代通子訳)『数の発明』、みすず書房、2021年
※3 Pitt, Benjamin, Edward Gibson and Steven T. Piantadosi. Exact Number Concepts Are Limited to the Verbal Count Range, Psychological Science, Vol. 33(3), 2022

つまり人間がひと目で認識できる数量は4が上限ということです。古くは1から4の数を数え上げ形式によって文字化し、5以上に異なる原理の文字(すなわち仮借による表記)を当てていた、という漢字に見られる現象は、正に人間のこのような認知上の能力と軌を一にします。

さらに数え上げ形式を取りやめ、「四」という仮借文字に書き換えたという現象も、4という数量が直観的認識の上限であることの裏返しであると考えられます。これは言い換えれば、線の本数を手掛かりに4を表す文字を認識することに認知的負担を感じていた人々が一定数おり、そのような人々が、「五」から「九」にならって発音を手がかりに認識する方向へと舵を切ったということです。