デジタル化はコモディティ化を加速させる

5万円のスマホも5000円のスマホも基本性能に変わりはない。要するにこれは「デジタル時計」の状況と同じになってしまったのだ。500円のデジタル時計も500万円のデジタル時計も“時間の精度”は変わらない。どちらも使われているチップは同じで、シチズン製の1個125円のモジュールだ。

製品がデジタル化されるとは、そういうことである。アナログテレビの時代は、「ソニーのトリニトロンブラウン管テレビは画質がいい」と言われれば何となくそう思えていたが、液晶のデジタルテレビは使われている半導体や回路にたいした差がないから、画質の差はほとんどわからない。

同じ画質なら安いほうがいい、画面は大きいほうがいいと、アメリカではソニー、シャープが50~60年かけて確立したブランドを蹴散らして、この2年で台湾系のVIZIOがトップシェアを奪った。

わが家にもテレビが何台かあるが、ブランド名を聞かれてもさっぱりわからない。洗濯機や冷蔵庫のブランドも同じである。

「デジタル化はコモディティ化を加速する」。これは日本の家電メーカーが苦戦している大きな理由の1つだが、コモディティ化が進む中でも部品やキーコンポーネントの供給元は限られている。セイコーよりもシチズンの営業利益が多いのは、主として時計よりもモジュールが強いからだ。

デジタル化した世界で現在生き残っている日本企業のほとんどが「部品屋」ないし「素材屋」である。今やデジタルの王者であるサムスンといえども、日本の部品、素材を使わなければ成り立たないが、この領域では日本は圧倒的な強さを誇っている。

たとえばiPhone 5sはカメラが圧倒的によくてデジカメが要らない、とよく聞くが、それはソニーのCMOSセンサーが使われているからだ。

そして最終的な組み立て加工は、縫製工場と同じで、労働賃金の安いところに、10年前ならチャイワンに、今ならバングラデシュに流れていく。

最近はチャイワンメーカーが苦戦しているが、その理由の1つに、真っ当なブランド(ソニーやパナソニックなど)を持っている企業と同じような組織体系のコスト構造になってしまったからだ。