わかりやすい説得は好意的に受け取られる
クラウドが登場したときに、まだ誰もクラウドのイメージしっかりとつかめていなかった。そこで、それを表示するアプリのインターフェイスについて、スティーブ・ジョブズはこんな風に表現をした。
「このアプリは、ドキュメントの見え方を管理してくれる。ちょうど、メールがそれぞれのメッセージの体裁を管理するように」
これによって、タイトルが羅列されて、中身がどのように見えて……と説明するよりも、このアプリで、iCloudの中をメールのメッセージを手元で管理するような体裁で見られることがイメージできる。たとえばiPod ShuffleとiPodがまだ目新しかったころに、そのサイズを説明するときには、こんな表現になっていた。
「iPod Shuffleは、ガムのパッケージよりも小さくて軽いんだ」
「iPodは、トランプひと箱のサイズだ」
「何グラム」「何センチ」と言われてもすぐには浮かばないイメージを、「アノ大きさか」と一瞬でイメージさせている。電話・インターネット・メールがすべてスマートフォンでできることが“どれほど便利であるか”を言い尽くすためには、こんな一言だ。
「iPhoneは、まるで自分の生活をポケットに入れているようなものだ」
機能を言い尽くす以上にインパクトのある表現として「便利だ」と伝わる。「Xはまるで~のようなものだ」というアナロジー表現を登場させ、聞き手にとっての既知の物事や慣れ親しんだ生活に落とし込むことで、より人がイメージできる範囲に踏み込んでいけるだろう。しかも、説明をより「絵」として浮かばせる表現は、聞き手の学習効果を高め、記憶に残りやすくなるはずだ。
デール・カーネギーは「自分自身はまったくよくわかっているが、それを聴衆にも同じようにはっきりと理解させるには、言い表そうとすることを聴衆によくわかるものと比べることである」*2)としている。
たとえば、カーネギーが科学現象のひとつ「触媒」を説明していた。触媒とは、それ自体は変化しないで、他の物質に変化をおこさせる物質のことだそうだ。これをアナロジー表現で説明するならば「触媒とは、校庭で他の子どもたちをひっくり返したり、なぐったり、怒らせたり、突っついたりして周っているのに、本人は他のだれからも一度も打たれないでいる子どものようなもの」だそうだ。触媒の説明として完全かはわかりかねるが、少なくとも触媒のイメージはこれでつかめた気がする。
こうした「わかりやすい」説得のほうが、聞き手に好意的に印象深く受けいれてもらえるのである。