――一方、同業他社では、低価格を優先するPB商品も見られます。

【鈴木】消費市場には、もちろん、商品の価格の安さを重視するお客様もいます。仮に価格重視のお客様が市場の60パーセント、質に価値を感じるお客様が40パーセントいたとします。普通はどちらをターゲットにするでしょうか。上質さの追求は際限がないため、低価格の商品をつくるほうが実は容易です。その市場に60パーセントのお客様がいれば、売り手の多くはそちらに目を向けるでしょう。

ただ、低価格重視のお客様に対し、売り手の大半が低価格の商品を供給すると、たちまち飽和状態になり、価格競争に陥ります。一方、質を求めるお客様に対し、上質さを実現できる一部の売り手が質の高い商品を提供したら、圧倒的な支持を得ることができます。セブンプレミアムやセブンゴールドの好調な業績が何より、それを証明しています。

商品をつくるのが容易で一定のお客様がいれば、リスクが低そうに見えて、みんなが参入する。かつて、1960年代から70年代にかけて、日本でボウリングが流行ったときもそうでした。施設と設備を用意してマニュアルどおり運営すればいいので、イトーヨーカ堂以外のどのスーパーも参入しました。すぐに飽和状態になり、飽きられてブームは去りました。

みんなが目を向ける60パーセントのお客様に目を奪われず、40パーセントのお客様のニーズに確実に応えることで大きな成果を得る。市場のデータを見て、単に数字の大小に目を向けるか、それとも、数字の向こうに勝ち残る道を見いだすか、違いがここにあるのです。

もちろん質を追求し、新しいものに挑戦すれば、リスクもともないます。ただ、顧客ニーズに的確に応えられれば大きな成功を得られる。今の時代、挑戦せず、自ら変化しないほうがむしろリスクが高いと思うべきです。

『新装版 鈴木敏文の統計心理学』(プレジデント社)
新装版 鈴木敏文の統計心理学

[著] 勝見 明

セブン-イレブンはなぜ、ライバルより日販が20万円も高いのか?それは「ビッグデータ」をどう捉えるかという鈴木敏文の「統計学」に理由があったのだ……。

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(インタビュアー=勝見明 撮影=尾関裕士)
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