――新しいことへの挑戦といえば、最近では、セブン&アイ・ホールディングスのプライベート(PB)商品の「セブンプレミアム」と「セブンゴールド」がヒット中です。ヒットした理由はどこにあるのでしょうか。
鈴木敏文氏

【鈴木】流通のPB商品といえば、従来は、“メーカーのナショナルブランド(NB)より安い商品”という位置づけが一般的でした。これに対し、私はわれわれのホールディングスのPB商品については、低価格優先ではなく、上質さを追求し、グループ内のコンビニ、スーパー、百貨店、どの業態のどの店舗でも同じ値段で売ることができる質の高い商品を開発するように指示しました。

なぜ上質さを追求したかといえば、ホールディングス企業の販売データを見ながら、デフレが続く不況の中にあっても、価格の安さだけでなく、質のよいものを求めるお客様が増えていることを見抜いていたからです。現代はモノ余りの時代で、誰もがあわててものを買おうとはしません。ただ、人間の欲望は無限です。人より新しくてよいものを求める自己差別化心理や、人が持っている新しくてよいものを自分も持とうとする同調心理は常にあります。今はアベノミクスへの期待感から、百貨店でも高級品がよく売れていますが、その心理が強く後押しされているのでしょう。

既存の概念とは路線を異にしたセブンプレミアムの販売の結果はどうだったか。メーカーのNBと同等以上の品質を手ごろな価格で提供したセブンプレミアムは、2012年度は総品目数1700品目、年間総売上高は4900億円で、1品目あたりの売上高は単純計算で3億円と、同業他社のPBより3倍近い開きがあります。単品での年間売上高が10億円を超える商品も92品目にのぼり、PBでは他に類を見ない売れ行きです。

ワンランク上のセブンゴールドも、「金の食パン」などヒット商品を生んでいます。材料と製法にこだわった金の食パンは1斤6枚入りで250円と、NBの売れ筋商品より5割以上も高い価格ながら、2013年(平成25年)4月の発売から4カ月で、1500万食とNB商品の2倍の売れ行きを見せました。

日本では、今年4月に消費税率が8パーセントへ、引き上げが予定され、その影響で消費の落ち込みが予想されます。それをカバーするには消費税が上がった分、値段を安くする発想に傾きがちです。しかし、本当は逆で、財布の紐を緩めるには、より上質な商品を提供するという発想に切り替えるべきです。