現状は長時間労働が「女の出世」の条件

このことを考えるうえで興味深い研究があります。米シカゴ大学のマリアンヌ・バートランド教授と、米ハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授とローレンス・カッツ教授は、将来の役員予備軍である米シカゴ大学のMBA卒業生を対象に男女の賃金格差を分析しました。その結果、就職直後は男女でほぼ同じ賃金なのに、10年後には大きな格差ができていました。その要因として大きかったのはビジネススクールでのコース選択と成績のほか、キャリアの断絶と短い労働時間でした。

つまり、結婚や出産でキャリアに断絶が生じたり、子育てで労働時間を短くしたりすると、それらがない人との間に大きな差がついてしまうのです。この研究論文の著者の1人は、職場で切れ目なく働き続けるコミットメントこそが米企業社会のトップにたどり着くための必須条件と強調しています。

アメリカですらそうですから、日本ではさらに厳しい状況があると思います。東京大学の大湾秀雄教授のグループが行った伝統的な日本の製造業1社の人事データを用いた分析では、女性で昇進しているのは長時間労働をしている人、育休から早く復帰している人という結果が出ています。

このように見ていくと、女性役員比率を高めるには女性のキャリア断絶を防ぐこと、すなわちフルタイムの労働参加率を高めていくことが極めて重要です。

そこで必要になるのが保育への支援です。OECD(経済協力開発機構)の調査でも育児サービスへの公的支出は、女性のフルタイム労働参加率にプラスに寄与するとの結果が出ています。

現在は保育園に入れるかどうかという議論が多いですが、保育園がどこにあるのかも重要な問題でしょう。保育園が終わる時間は決まっているので、子供を預けている女性はそれに間に合わない事態が生じると仕事を続けられなくなってしまいます。職場の近くに保育園があれば、そうした事態を防ぐことができるかもしれません。

また、育休については約2年を超えない限り女性の労働参加率に正の影響を与えるとの研究結果があります。ただし、それ以上になると負の影響が出てきます。「育休3年」は、女性のキャリア断絶回避という視点からは矛盾をはらむ政策といえるでしょう。