気圧の変化を避け、車で1000km移動

諦められない夫は、張さんをすぐ西安の病院へ転院させた。西安は四川省の省都で、甘粛省からは隣の省にあたる。広い中国のこと、移動距離は約1000kmにものぼる。

傷病者にその距離を移動させる場合、通常は飛行機移動となるが、飛行機には離陸・着陸の間に高度が変わり機内の気圧が変化するという問題があった。気圧が変われば、張さんの眼圧・頭蓋内圧が上昇し、眼球のケガに悪影響を及ぼす可能性があるわけだ。

そのため張さんの夫と親族は、車での移動を選択し、張さんを車に乗せ、西安まで約1000kmの距離を、約40時間かけて移動した。

張さんが西安市人民医院の救急科に到着したのは9月9日の早朝だった。

入院時、張さんの頭部には多数の開放性創傷があった。開放性創傷とは、皮膚が破れて皮下組織や筋肉が露出している状態を指す。

また、張さんの右眼球はすでに脱け落ち、光の感覚もなかった。

また、左耳の耳たぶに裂傷があったほか、外耳道(耳の穴)の中にも裂傷があり、鼓膜穿孔(鼓膜に穴が空いた状態)だった。クマが張さんの耳を攻撃し、キバか爪が耳の中まで到達していたらしい。

また、この時、張さんが妊娠14週であることが確認されている。

6時間に及ぶ大手術で一命を取り留める

中国国営放送「CCTV」の記事には、西安の病院で治療を受ける張さんの痛々しい姿がモザイク加工された写真で掲載されている。

病院はすぐ手術することにした。張さんが妊娠14週目である点が心配されたが、妊娠中期に入り、麻酔が胎児に影響する時期は過ぎていると判断された。

9月9日午後1時、手術が開始された。張さんの傷の範囲と程度は、術前の予想より深刻で、眼部・耳部・鼻骨・頬骨などに複数の裂傷と骨折が見つかった。

手術は6時間にも及び、張さんは1400mlの輸血を受けた。ICUで数日過ごした後、一般病棟に移り、9月18日には無事退院したという。

張さんの夫は、「張さんの右目の眼球は残っていたが、99%の確率で右目が見えなくなると言われました」と証言している。

「妻はとても美しく、勤勉な女性。クマに襲われても、勇敢で強いところを見せてくれた。視力が残る可能性が1%しかなくても、私と家族は最大限の努力をして、妻の治療を続けます。耳の治療や顔の回復も含めて……」