ある妊婦を襲った突然のクマ被害
ただ、クマによる襲撃の大半は、事前にクマを見つけられず、「突然クマが襲ってきた」ケースだとされている。
この場合はクマからの攻撃にどう耐えるかが問題となる。
クマの戦闘能力は非常に高いため、中途半端に戦うと致命傷を受ける可能性が大きい。ナタや杖などで戦い勝利した事例もあるが、原則として、クマとは絶対に戦ってはならない。戦うかわりに「うつ伏せで首の後ろを守る姿勢」をとり、多少のケガは覚悟し、致命傷だけは避けましょう、という対処法となっている。
東京都環境局のHPに書かれているこの対処法は、日本中で広く教えられているものだ。
一方で、少々誤解されているフシもあるように感じる。
クマに遭遇した際、最初から「うつ伏せで首の後ろを守る」が最善と思いこんでいる人が少なからずいるのではないだろうか。
最初からこれをやるのは、ほぼ「死んだフリ」をするのに等しい。その結果どうなるか。実際の事件をもとに考えてみたい。
2025年9月、中国・甘粛省に住む張さん(22歳)は当時、妊娠14週目だった。安定期に入り、つわりも落ち着いてきて体調は良かった。
中国・甘粛省をご存知の方はどのくらいいるだろうか。甘粛省は中国西北部に位置する省で、省都は「蘭州ラーメン」で有名な蘭州だ。
人口は約2500万人。西にはあの新疆ウイグル自治区が位置する。
鋭いキバが、張さんの右目と左耳に刺さり…
甘粛省は歴史的にはシルクロードの要衝として栄えてきた。世界史で勉強する「敦煌」は甘粛省にある。
シルクロードというと、砂漠をキャラバンが旅するイメージもあると思うが、実際、甘粛省の大半は内陸性気候で、砂漠地帯が多い。水を手にいれるのも困難という過酷な自然環境のため、農業に適さず、中国でも最も貧しい地域の一つとされている。
そんな甘粛省に住む張さんは22歳の女性で、夫との間に2人の息子がいた。夫は日雇い労働者で、張さんは家で子育てをしながら、牛の放牧で家計を支えてきた。
そんな張さんがクマに襲われたのは、2025年9月7日の午後だった。
張さんが牛を連れて帰路についていると、背後4~5メートルの距離に、突然クマが現れた。
クマの気配に気づいた張さんが後ろを振り返る。と、その瞬間、クマは唸り声を上げて張さんに飛びかかった。
クマは張さんの背中を爪でひっかく。服がたちまち引き裂かれ、張さんは苦痛にうめいた。
クマはさらに、張さんの頭部、顔面に激しく噛みついた。クマの鋭いキバが、張さんの右目と左耳に深く刺さると、目から血が噴き出した。
クマはそれでも攻撃をやめない。まさに絶体絶命の危機だった。

