変貌する渋谷駅前に残る、変わらない歴史
「事件当時、私はアメリカに短期留学していて、詳細を把握していませんが、父・弘は事情聴取のために警察に呼び出されて、取り調べを受けたようです。ただ、そのことについて、息子の私にはあまり話したがらなかった。いろいろと思うところがあったのでしょう」(舩坂良雄さん)
壮絶な歴史ではあるが、舩坂良雄さんから見た三島由紀夫は、気持ちのやさしい、“普通のおじさん”だったという。
既述のように、父・舩坂弘さんと三島由紀夫の出会いの場は、渋谷警察の道場だ。そして、高校生の舩坂良雄さんも同じ道場に通っていた。
「私は剣道と居合道の稽古を行っていました。経歴で言うと、剣道の方は三島先生のほうが先輩ですが、居合道については私のほうが少し先輩でした。稽古が終わると、併設された風呂にみんなで入ることもあった。三島先生の豊かな胸毛を見て、『先生、それを何本かください、うちで売っている先生の作品のおまけにしたら高く売れそうだから』って、そんな冗談も言ってました。先生は『いいアイディアだね』と豪快に笑っていらっしゃった」(舩坂良雄さん)
現在の渋谷は、インバウンドの聖地となり、巨大IT企業が集まるグローバルな街へと変貌した。駅も、坂も、人の流れも、かつての姿を大きく変えている。それでもスクランブル交差点の一角に、大盛堂書店は今も変わらずある。
その歴史の奥には、戦場から生還した舩坂弘の記憶があり、その原稿に序文を寄せた三島由紀夫との縁があり、さらに三島の割腹自決へとつながる一本の刀の物語がある。渋谷は、こうした変わらない歴史が生き続けている街でもある。


