昭和の住宅街から「スタートアップ」の街へ
西口・桜丘町エリアの変化も凄まじい。季節になれば、通りの両側に植えられたソメイヨシノが、ぎっしりと咲く「さくら坂」で知られる一帯だ。
かつては、バスターミナルの背後に楽器店や古びた「桜丘会館」などが並び、どこか昭和の住宅街の静けさや情緒があった。国道246号線が駅まわりの喧騒を遮る壁となって、裏町の風情もあった。数百円で酔える立ち飲み屋なんかもあり、ポケットが空になるまで、飲み明かしたのを懐かしく思い出す。
ところが現在は、巨大でカラフルな「シブヤサクラステージ」が開業し、歩行者デッキが国道を跨いで駅と街を繋いでいる。これにより、桜丘は「孤立した坂の街」から、最先端のITスタートアップが集う「空中都市の玄関口」へと生まれ変わった。
外国人旅行客がつい撮りたくなる看板
渋谷に来ると、自分がよそ者であると強烈に感じる私だが、渋谷の街で、よそ者でなくなることができる唯一の場所がある。それがJR渋谷駅ハチ公口の目の前にあるスクランブル交差点だ。
神宮通りと旧大山街道が交差する「渋谷駅前交差点」。多い時には1回の青信号で2000人を超える人間が行き交うのに、接触トラブルが起きない。“ぶつからない交差点”として、世界的に知られている。渋谷を訪れた訪日客の多くが、この場所で写真や動画の撮影をする。
渋谷駅から北西方向に、この交差点を渡ると、センター街に行き着く。その手前に「大盛堂書店」はある。この日も看板の前で記念撮影をする外国人旅行客が何人もいた。大盛堂の看板を見ると、私は妙に安心する。理由を言葉にするのは難しいが、かつては日本中のどこにでもあった、街の本屋の風情を感じることができるからだろう。「大盛堂書店」の看板が見つめてきたのは、変わりゆく渋谷の姿だけではない。戦後日本の文学、書店、日本人の精神、それらが包括する文化そのものを見つめてきたといっていい。大盛堂書店、3代目代表の舩坂良雄さんに聞いた。



