IAAに関しては、ドイツを中心に経済界の批判が根強い。また同国のフリードリヒ・メルツ首相をはじめ、EUの過剰規制に対して批判的なリーダーも数多い。一方、EUを率いるウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長は、過剰規制を緩める姿勢を示しつつ、結局は規制強化を通じて物事を成し遂げようとする。これでは話にならない。
過剰規制の結果、コストがかさむのだから、EU製品の国際競争力は自ずと低下する。これでは立ち行かないから規制緩和に踏み切るべきだと内外から批判が寄せられるのに、EUは安全保障の名の下に、結局は規制強化を断行する。それがさらなるコスト高につながり、EU製品の国際競争力の低下をもたらすという負のループである。
安全保障という名の産業介入
冒頭で述べたサプライヤー多様化の義務付けを通じた中国製品の実質的な排除と、IAAによる域内製品優遇は、実際は裏と表の関係にある。EUは米国や中国を閉鎖的であり自由貿易に反すると批判するが、一方で規制強化を通じてメイドインEUの実現を目指そうとしている。これは大いに矛盾した姿勢だが、EUは意に介さないようだ。
コロナショックとロシアショックを経て、グローバル経済は、いわゆるスタグフレーション(景気停滞と物価高騰の併存)の局面に入っている。スタグフレーションを脱するためには、需要を抑制しつつ、供給を刺激する必要がある。供給の刺激のために必要なことは、企業の活力を導き出すような規制緩和であり、規制強化ではないのだ。
EUは中国が自国企業に手厚い支援を行っており、競争を歪めていると批判するが、そのEUが行おうとしている新たな規制緩和は、域内企業に対する支援ではなく、むしろ介入とも言えるものだ。そうした統制的な性格が強い産業政策が経済の底上げにつながらないことは、それこそ1970年代に欧州が嫌というほど経験した事実である。
それを忘れてしまったかのように、EUは規制強化で、競争力の改善を実現しようとし続けている。過剰規制に対する内外からの批判も、経済安全保障の名の下に、それを退けている。とはいえ、繰り返しとなるが、EUが志向するそれは産業支援というよりも産業介入であり、企業の活力を弱らせる産業統制としての性格を持つものだ。
一連のことは、日本にとっても他山の石となる。日本では規制強化よりも需要刺激に目が向きがちだが、スタグフレーションの時代に必要なことは、規制緩和を通じた企業活動の活性化だ。レアアースの自給自足を目指すことよりも、外部環境の変化に企業がしなやかに対応できるよう、不必要な規制を取り払うことこそが肝要である。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)


