“勝ち組”の中国も無傷ではない
もっとも、アメリカや中国がこの危機を無傷で乗り切ったわけではない。
アメリカでもガソリン価格が上昇し、トランプ政権への批判が殺到。制裁原油の備蓄と通航料の人民元決済で「漁夫の利」を得たはずの中国にも、同じく原油価格高騰の波が襲う。
石油の約70%を輸入に頼る中国。ジェット燃料の急騰で航空券の値上げや欠航が相次ぎ、輸送コストが上昇。世界的な商品価格の高騰により、工場出荷価格が押し上げていると米CNNは伝える。
当局はガソリン・軽油の価格統制に乗り出し、国有精製企業には商業用石油備蓄の放出まで認めた。
中国は通貨面でもなお、脆さを抱えている。アルジャジーラによれば、2025年のIMFの統計でドルは世界の外貨準備の57%を占める。人民元はわずか2%にすぎず、「石油人民元」の拡大を狙うとはいえ、現状では桁が違う。
貿易決済でも同様だ。S&Pグローバルの集計では、国際貿易決済に占める人民元の比率は2024年時点で3.7%。2012年の1%未満からは伸びたが、基軸通貨との差は歴然だ。
フランスの大手投資銀行ナティクシスのアジア太平洋地域チーフエコノミストであるアリシア・ガルシア=エレーロ氏は、アルジャジーラの取材に応じ、エネルギー取引での人民元の使用は、「世界の脱ドル化を実現するものとは言い切れない」と指摘する。ドル体制の本丸はびくともしていない、という見立てだ。
ただし、こうした弱みがあるからといって、中国の優位性を全くもって無視できるわけではない。ドルの覇権には届かずとも、中国が人民元の足場をじわりと広げ続けるシナリオも予想される。
なぜトランプの戦争で日本が苦しむのか
中国は今年に入り、グリーン技術の輸出を軒並み急増させた。
CNNは中国政府の公式データを基に、第1四半期のEV輸出は前年同期比78%増だと報道。リチウム電池は同50%増、風力タービン関連も同45%増だという。ホルムズ海峡封鎖による混乱も追い風として、グリーンエネルギーで攻勢をかける。
当然、石油不足の代替エネルギーとなっていることを考慮すれば、輸出攻勢は何ら非難されるべきものではない。石油に代わる再生可能エネルギーの活用は、時代の流れに沿ったものでもある。
ただし、国際制裁をかいくぐるようにして行われる割引価格での原油輸入は、決して褒められたものではない。
情勢全体を見渡せば、アメリカが始めた戦争は、対立する大国である中国に想定外の利益を与えた。一方で苦しんでいるのは、日本や韓国などアメリカの同盟国だ。
アメリカのトランプ大統領は「力の誇示」を掲げたが、結果として敵対する中国を太らせ、味方の同盟国を最も深く傷つけ、自国内にも正体不明の受益者を生みつつある。
2026年の春に始まった世界的混乱に、まだ幕引きは見えない。


