つらくなる受験勉強
16歳の頃は、受験勉強がさらにつらくなっていた。やはり数学と物理が重荷だった。Z会の問題を解いて送ると採点されたものが戻ってくるが、その解説が光には不十分だった。
30°の斜面の下端に静止している質量mの物体に、大きさFの力を加えて距離S移動させる。
こういう問題が出ると、光はほとんど答えられなかった。
「父さん、これ分からないよ。どういう意味? 解説を読んでも分からない」
「うっ……」
私にも全然分からなかった。待てよ、いい方法がある。私の兄はエンジニアであり、典型的な理系人間だ。今でも物理の問題は解けるかもしれない。メールを送ると、早速詳しい解説を送ってくれた。光もこれなら分かると笑顔で納得してくれた。
だが、毎日兄に聞くのはいくら何でもムリがある。光は自学自習で数学、物理と格闘した。でもやはり思うように問題は解けなかった。
夜遅くになると書斎へ泣きに来た
この時期、夜遅くになると、不安が昂じた光は私の書斎へ泣きに来た。次々に質問してくる。
「大学、受かるかな」「浪人してもいい?」「なんでこんな病気になっちゃったのかな?」「嫌いにならない?」「こんな子でもいい?」
私はどれだけ時間が経過しても光を慰め続けた。
「大丈夫だよ。光は抜群に絵も上手いし、勉強だって国語と英語は得意じゃないか。父さんも協力するから、一緒にがんばろうよ。親子じゃないか」
「本当に大丈夫?」
「絶対に大丈夫」
「嫌いにならない?」
「絶対にならない。親っていうのは、自分の子どもの面倒を見られるのが幸せなんだよ」
見る見る間に光の瞳に大粒の涙が浮かび、次から次に頬にキラキラした線を作った。
「お父さんとお母さんがいなくなったら、どうやって生きていけばいい?」
「あ、それは大丈夫。人生ってどうにかなるようにできているから」
「本当?」
「本当だよ」
私はわざと軽い調子であっさりと「本当だよ」と言ったが、本当か本当でないかは実のところ誰にも分からない。私の胸の奥には正直なところ不安がある。だけど、親として「本当だよ」以外の返事はない。私は間髪を容れずに、そう答えていた。
光は涙を拭くと、ちょっと照れたような表情で声をかけてきた。
「父さん、肩を揉んであげる」
「ええー、いいよ。そんなことしなくても」
「でも、ちょっとだけ」
しばらく光は私の肩を揉むと寝室へ戻っていった。


