とても試験に行ける状態ではなかった
試験日当日になった。私のクリニック出勤と、妻が光を連れて家を出るのはちょうど同じ時刻だった。でも光は泣きじゃくって「怖い、怖い」とうずくまった。とても試験に行ける状態ではなかった。
私は正直なところ落胆した。あれほど毎日励まして、本人も少し前向きなことを言っていたのに。高卒認定試験をパスできなければ大学受験の道も閉ざされる。17歳までにパニック症は治ってくれるのか。治らなければ、大学受験すらできない。
「ムリなものはムリだから、行かなくていいよ。もう泣かないで」
私はそう声をかけてクリニックへ向かった。診察中、私の心はずっと晴れなかった。光の未来はどうなってしまうのだろうか。この日は土曜日で、午前中に53人の患者を診察し、午後2時からは60人の患者にインフルエンザの予防接種を打った。夕方になり、妻にLINEで帰るというメッセージを送って帰宅した。
まずは3教科受験、残り2教科も翌年合格
玄関の扉を開けると、いつものように妻が出迎えてくれた。そして妻の後ろに光が隠れるように張り付いている。
「ただいま。どうしたの?」
「光、受験できた」
「え! ほんとに!?」
光が、こくんと小さく頷く。照れくさそうに、少し自慢げに。
妻が続ける。
「それこそ段階的曝露じゃないけど、1教科だけ受けようって言ったの。何年かかったっていいじゃない。1教科ずつ受ければ何年後かに全部受かるって。それでがんばって行ってみたら3教科受験できた」
「すごいじゃないか!」
じわっと目頭が熱くなった。私は、妻と光をまとめて抱き抱えた。
この日、光は、国語・英語・数学の3教科を受けた。そして翌日、地理・世界史・生物基礎を受験した。2週間後に合格発表があり、すべてパスしていた。残り2教科は翌年の8月に合格した。

