入社当時、職場に1台あった計算機は給与計算用で、技術計算をするには神戸の事業所まで行くしかなかった悔しい記憶があり、「給料袋が違うから、部門ごとに給与計算をしていたんだな」と頭の中で結びつきました。その後もずっと続いていた。それはタテ割りのムダを象徴していました。給料の帳票1つにしても、社内にいい知恵があれば、ヨコ展開で活かせばいい。給料袋の違いから、組織の問題点が見え、それがタテ割りにヨコ串を通す改革へと結びついていった。現場は思考力を鍛えるのに最も適した場です。

「見える化」もアナロジー的な思考を促します。例えば、当社では12年4月から、事業ユニットごとに資本効率を測る指標としてEVA(経済的付加価値)を導入します。背景の1つには、私自身の取締役としての経験があります。各事業本部から事業計画の説明を受ける際、疑問点を質問しても、国会答弁みたいに答えが用意されていて、なかなか修正されませんでした。これでは経営は健全化しません。そこで、EVAのようなエビデンスによって経営の質を見える化すれば、自社や他社の類似したビジネスユニットとアナロジーで比較できるようになり、問題点を明確にできると考えました。

業務プロセスのロスを見える化するため、取り組んでいる「巻紙分析」も同様です。大きな紙の上でタテ軸に担当者や部署、ヨコ軸に時間軸をとって、各工程のインプットとアウトプットを時間上で示し、それぞれを線で結んで業務の全体像を可視化する。すると、各自が行った仕事の問題点が見えてきます。それまでは関係性があるとは実感できなかった組織全体の問題点と自分の仕事の問題点がアナロジーで結びつくことに気づく。改善点が見つかれば、日本人は必ず直そうとします。