3グループにわけられるリスク因子

これら14のリスク因子は、大きく三つのグループに整理することができます。

一つ目は、血管や代謝に関わる要因です。高血圧・糖尿病・LDLコレステロール高値・肥満・喫煙・過度の飲酒はいずれも、動脈硬化や血流の障害を介して脳に悪影響を及ぼします。生活習慣の見直しや適切な治療によって改善できるケースも多く、体全体の健康管理がそのまま脳の健康につながることを示す要因群です。これらに気をつければ、認知症だけではなく、心血管疾患やがんといった他の疾患の予防にも役立つので一石二鳥です。

二つ目は、感覚や身体機能に関わる要因です。難聴や視覚障害は放置すると外出や会話の機会が失われ、社会的な孤立や活動量の低下を招くことがあります。脳への刺激が乏しくなることが認知機能の低下と関係する可能性があり、補聴器の活用や視力の矯正といった比較的取り組みやすい対策が有効とされています。運動不足、頭部外傷も、日頃の体の使い方や転倒・事故への注意という視点で意識しておきたい要因です。

三つ目は、社会・環境・心に関わる要因です。教育年数の短さ・社会的孤立・大気汚染などには、個人の取り組みだけでは対応しきれない側面があります。人とのつながりを大切にし、心の健康に目を向けることは個人レベルでも実践できますが、教育の機会を広げることや大気環境の改善は、社会全体での取り組みが不可欠な課題です。

国や地域によってリスクは変わる

以上はいずれも世界規模の研究から導き出された知見です。しかし、食事や運動の習慣、社会とのかかわり方など、生活のあり方は国や地域によって大きく異なります。

認知症のリスク因子の影響の大きさも、そうした社会的・文化的な背景によって変わってくる可能性があります。そこで注目されるのが、日本のデータを用いて同様の手法で分析した研究です。世界的な枠組みを日本の実情に照らして検証したという点で、意義深い取り組みといえるでしょう(※2)

実際、世界と日本とでは異なる点も見られます。たとえば、世界規模の研究では「教育年数の少なさ」が比較的大きなリスク因子として位置づけられることが多いですが、日本ではその影響は相対的に小さくなっています。義務教育が広く普及し、教育水準の格差が生じにくい日本の社会環境が反映された結果と考えられます。

同じ認知症でも、社会や生活環境によってリスクの構造が変わることを示す興味深い結果といえるでしょう。

※2 The potential for dementia prevention in Japan: a population attributable fraction calculation for 14 modifiable risk factors and estimates of the impact of risk factor reductions - PubMed