各習慣の解説に入る前に、その前提となる基礎原則と呼ぶ概念を解説しておこう。
基礎原則の1つが「パラダイム」。私たちはパラダイムを通して世の中を見ている。コヴィー博士が「私たちは物事をありのままに見ているのでなく、私たちのあるがままに見ている」と言っているように、人はこれまでに獲得した情報や考え方、立場などの枠組みで物事を見る。そのため、同じものを見ても個々人で見え方はさまざまである。
つまり、パラダイム次第で物の見方は変わり、考え方が変わる。考え方が変われば行動が変わり、最終的な結果が変わってくる。これを「変化のサイクル」と言う。
望ましい結果を得られなかったとき、私たちはしばしば行動を変えようと努力する。確かにそれである程度は望ましい結果を得られるかもしれないが、より効果的な方法は行動を変えるよりも、行動の前にある考え方を変えることだろう。
コヴィー博士はパラダイム転換の身近な例として、自身が地下鉄の車内で体験したエピソードを紹介している。
日曜日の朝、静かな地下鉄の車内に1人の男性と子供たちが乗り込んできたときのことだ。子供たちがひどく騒ぎはじめたのに、男性は目を閉じたままその状況にまったく気づかない様子だった。しびれを切らしたコヴィー博士が男性に子供たちを大人しくさせるよう控えめに促すと、彼はこう返事した。
「たった今、病院から出てきたところなんです。1時間ほど前に妻が……、あの子たちの母親が亡くなったものですから、いったいどうすればいいのか……」
その瞬間、いらいらした気持ちは一瞬で消え去り、同情や哀れみの感情が自然にあふれ出て、コヴィー博士はこう申し出た。
「それは本当にお気の毒に。何か私にできることはないでしょうか」
パラダイムが変わることで、男性に対する考え方や行動が一瞬ですべて変わったのだ。
小さな変化を望むのであれば、私たちの行動や考え方を変えればよい。しかし劇的な変化を望むのなら、私たちの持つパラダイムそのものを置き換えなければならない。
とくに現在のように先行き不透明な環境の中では、従来とは異なった行動や考え方が求められる。パラダイムを置き換え、まったく違った視点から物事を考えていかないと、なかなか望む結果には結びつかない。