人間よりはるかに賢いAIとの付き合い方
僕たちのような科学者も、昔までは学会などで必要な論文をひとつひとつ読み込んでは重要な部分にはマーカーなどで線を引く。そんな情報収集をしていた時代もあったわけですが、今ではAIを活用すれば10個の論文も1分ほどで要約してくれます。
こうした事例からも、AIの情報圧縮力が進化すればするほど、僕たち人間の賢さの意味が失われていくのです。もちろん、働き方にしても同じです。
情報収集のみならず、物事を記憶する、入力をする、計算をする、データを集計する、分析をする、あるいは、日々同じことを繰り返すルーティン作業の数々……。これらは人間より、AIのほうが得意だということは皆さんもすでにお気づきのはずです。
にもかかわらず、それらの作業を朝から晩までせかせかと必死にこなしていくことが果たして今の働き方として正解だといえるでしょうか。そうした努力は、これからのAI時代には「無駄な努力」として扱われるだけでなく、今皆さんが気にしている「コスパ」「タイパ」の無駄遣いになってしまうことは火を見るより明らかなのです。
AIの進化を、人間にとっての脅威だと考える専門家もたしかにいますが、僕はむしろAIは上手に利用すればいいと考えています。
なぜ超一流は手ぶらなのか
これからの時代の働き方として、情報収集ひとつとってもAIが得意とする作業はAIに任せ、僕たち人間は人間の脳が得意とする分野で力を発揮する。すなわち人間とAIがお互いに棲み分けをしながら共存していくことを僕は提唱したいのです。人間とAIがお互いの長所を活かし合うことが、これからの労働環境ではますます求められるからです。
では、AIを100万倍速という情報圧縮エンジンとして活用しながら、「1倍速」の人間だけが持つ能力をどのように駆使すればいいのか。
最近、ある講演会に呼ばれたときのことです。
その講演会を主催する方から、「茂木先生、本日はよろしくお願いします。ところで、今日お話しされる際にパワーポイントなどの資料はございますか?」と当たり前のように尋ねられました。
そこで僕は、「資料など一切ないです。イーロン・マスク方式でやらせてください!」と答えると、講演会を主催する方の頭の上には「?」が浮かんでいました。
自身が率いる宇宙開発企業スペースXがAI企業xAIの買収を発表して大きな話題にもなったイーロン・マスク。彼の講演やプレゼンを見るとわかりますが、資料など一切用意せず、ふらっと会場に来て本質を言ってさっと帰っていくというスタイルを貫いています。

