初心者の「私の話」が一番つまらない
【養老】僕だったらうちのおふくろを書きますね。開業医だったので、よく往診に行っていたんです。ある時に往診先のお宅から電話がかかってきて、「先生が下駄の片方を間違えて帰りました」って。うちは横丁にあったんですけど、「出かけるよ」という声が聞こえたら、もう大通りに出ているという感じの母親だったので、そういう作文を書かされたら、おそらくそうなりますね。おふくろのことを書いてりゃ済んじゃう(笑)。
【内田】誰でもおもしろいエピソードをいくつかは知ってるはずなんです。でも、そんなことを自分の記憶の中から取り出してこれない。よくあるつまらない話が「周りを見回して、一番そそっかしい人というと私です」というのです。なんで「私の話」なんか書くんだろう。それじゃ「写生」じゃなくて、いつもの「感想文」になってしまう。初心者の書く「私の話」が一番つまらない。それは自分が経験したものを「写生」するという習慣がないんでしょうね。周りを観察していない。
その他に「自分が食べた一番まずかったもの」というテーマを出したこともあります。「繰り返し、同じものが再帰してきた話」とか「なんだか知らないものが宙に浮いていた話」とか、思いつくままにいろいろな作文課題を出しました。
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