ビジネスで最重要と言っても過言ではない「営業」について教えるMBAプログラムが、ほとんど存在しないことをご存知だろうか。この過酷にして奥深い仕事の醍醐味を追究した異色の営業本、『なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか?』(フィリップ・デルヴス・ブロートン著)。著者の友人でもあるライフネット生命社長岩瀬大輔氏が「人にモノを売ると言う理屈の通用しない仕事」について語った。
ビジネススクール型の授業がもっとも向いていない分野
本書のエピローグには、MBAをとったあとに「Vウォーター」というビタミン強化飲料のベンチャー(のちにペプシが買収)を立ち上げた著者の友人、クリストファー・コールリッジが新入りに飛び込み営業をさせる場面がある。新入りが店に入る前と出てきた後にアドバイスしながらOJTで鍛えていく。「嫌われない程度に、できる限り押してみればいいんだ」「もっと熱意を出してもいい。君は夢を売ってるんだ」「なかに入ったら、店長に、ここがこのチェーンで最初にVウォーターを置く店舗になると言うといい」「わかった、サム。でもそこではっきり言わないとだめだ」「相手が商品は気に入ったと言ったあとに間をあけたら、君はこう言うんだ」「いいか、感情に訴えるんだ」「店長にわれわれのすごい販促活動を全部教えて、彼の気持ちを盛り上げろ」……。
このやりとりを見るだけでも、セールスがビジネススクールで教えられない理由がわかるだろう。指示の与え方だけでなく、けしかけ方、励まし方、褒め方もスポーツのトレーナーのように具体的だ。そもそもビジネス自体が現場に身を置かなければ学ぶことができないものだが、営業はその最たるものだ。ビジネススクール型の教育がいちばん向いていない。ならばビジネススクールで教えるべきは、「ビジネスでもっとも大切な営業という仕事については教えることができない」という事実であり、そういう仕事をしている人間は会社の宝であり、そのように扱わなくてはならないということではないだろうか。