ストレス社会で生きる現代人の健康リスク
怒りは老化(身体と脳)を促進させるだけでなく、さらに深刻な健康問題を引き起こします。これまでにも多少言及してきましたが、ここでは数々の研究結果をもとに、特に重篤な疾患との関係を解説していきましょう。
怒りは人生とともにあるので(進化的にも根強い感情なので)、怒りで命に関わるような深刻な病気になることは、本来ならないか、あっても稀なはずです。
ただ、怒りはストレス系と深く結びついていますし、「敵」はもちろんのこと、SNS使用によっても、時間に追われても、孤独になっても、期待が裏切られても、不当に扱われても、不平等を意識しても……、怒り感情が往々にして出てきます。そして、今述べたようなことが多い(というか、多すぎる)のが現代社会です。そのため、実際問題として、怒りは重篤な疾患をもたらすことがあります。
そうした疾患は、怒りのメカニズムからも推測できるように、心臓血管系が主です。脳では脳卒中です(特に、脳の動脈を血栓が塞いだり狭めたりすることで起こる虚血性脳卒中)。ちなみに、怒りという感情による疾患は医科学的にも興味深いので、さまざまな観点からの研究が多数なされてきました。なので、ここでは代表的な研究を簡単に紹介することにとどめることにします。
怒りそのものが心臓に悪影響を及ぼす
まず、代表的な(研究者の間でも有名な)ものとして、ハーバード大学が行った研究を挙げます。
この研究では、1305人の平均年齢62歳男性を対象に、怒りのレベルと心臓病発症の関係性を調査しました。参加者は心理テストで怒りのレベルを評価され、数年ごとに健康診断を受けるというものです。7年間追跡調査した結果、当初は健康だった参加者のうち110人が冠動脈疾患を発症し、特に怒りっぽい性格の人は、穏やかな人と比べて発症リスクが3倍に上ることが判明しました。
驚くべきことに、この結果は喫煙や高血圧といった他のリスク要因を除外しても同様でした。つまり、怒りそのものが心臓に深刻な影響を及ぼしていることが示唆されています(こうしたデータが得られるくらいなので、怒り感情による疾患はやっぱり研究的には興味深いものです)。

