「スプーン1本」減れば、朝の負担が軽くなる
「30〜40代のお客様のなかには、子育てをしていて、なおかつ仕事をしている人たちが多くいらっしゃいます。そして、ジャムが消費される場面は、圧倒的に朝ごはんが多いことがわかります。したがって、子育てをしているご家庭の朝食にとって、瓶ジャムの何を改良すべきかを検討することにしました。
お客様の声を聞いていくと、まず『使用したスプーンを洗わないといけない』という、実生活に即したものがありました。『たかがスプーン1本』と思われがちなのですが、慌ただしい朝の光景を具体的に想像してみれば、洗い物が減ることがどれほどお客様の負担を軽くするだろうと私たちは考えました。
また、お子様がいらっしゃるご家庭では、『子どもがジャムのついたスプーンを舐めて、それを瓶に戻してしまう』という声もありました。やはりこれも朝の慌ただしさのなかで、ふとした隙にありえる1コマです。唾液などが混入してしまうと、カビなどの原因となり、衛生面に不安を感じるのは当然のことだと考えました。
そして、『瓶だと捨てづらい』という声もありました。自治体によっては回収日が少ないところもあり、瓶のジャムを手に取りづらい理由になっているようでした」
“父親としての朝の経験”もベースにあった
これまで紹介したように、伝統であった瓶ジャムとは“異なる選択肢”を掲げて突き進む原動力には、モニターの切実な声があった。だが同時に、開発担当者の松本さん自身の生活者としての視座があったことは疑いようがない。
「個人的な話で恐縮ですが、私も働きながら子どもを育てる父親の立場です。子どもはジャムを塗ったパンが大好きで、とにかく時間のない朝はジャムパンが家族の食卓に頻繁に出ます。もちろん、スプーンを洗う作業は重労働と呼ぶほどではない、“ほんの少しの不便”です。けれども、瓶から出さないジャムを開発すれば、毎日を忙しく働くファミリーを応援する商品になるのではないかと思いました。また、プラスチックであれば、子どもが落として割れないのも利点ですね」
決して極端な言葉を用いず、一言ずつ慎重に伝えてくる松本さんの口調には、誠実さが感じられる。その彼が、柔和で思慮に富んだその瞳に確信を宿してこう言う。「新商品『アヲハタ Spoon Free』は売れると思いました。絶対に実現させたかった」。


