それでも自衛隊に声がかかった理由

では、なぜ自衛隊にお声がかかったのか。鈴木知事も昔、陸上自衛官だった。A氏がぼやくような状況は十分把握していただろう。A氏は「きっと2つの理由があるからでしょう」と話す。「まず、自衛隊員は国のためだからと喜んで働きます。もう一つは、人件費がタダだからです」。確かに鈴木知事もコメントで「マンパワー不足」をぼやいていた。予算不足に苦しむ自治体は少なくない。

自衛隊員は一般の人なら尻込みする場所にも嫌がらずに入っていく。2018年2月、北陸豪雪被害に対する災害派遣では、国道8号で、31.8キロにわたって除雪し、車両1190台を救出した。スキーも装着できる防寒靴を履き、防寒用の上着や保温下着、布手袋などで寒さから体を守ったが、逆に汗もかきやすくなる。凍傷にかからないよう、ぬれてぐしゃぐしゃになった靴下や手袋を取り換えながら働いた。チョコレートやヨウカンを口に入れ、低体温症や脱水症状に警戒しながらの作業だった。

自衛隊が台風や地震災害など、どんな難所でも喜んで引き受けるのは、「60年安保と70年安保で地に落ちた自衛隊のイメージを何とか挽回したいという思いがあったからです」と、陸自元幹部のB氏は語る。自衛隊は阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災(2011年)などで必死に働き、その甲斐あって、今や「日本の政府機関で最も信頼されている組織」と評する声が出るまでになった。