病院の中にいるポロシャツを着た地元の人

【竹田】武中先生が病院長になられてから始めた、病院の中にボランティアとして地元の人に入ってもらう「サポーター制度」も素晴らしい。

【武中】とりだい病院では、高度医療を提供しています。患者さんは重度の疾患で困っているとき、病院に行くのは不安ですよね。病気ではない平時のときに、とりだい病院を知ってほしい。

そうすれば何かあったとき、安心につながる。ただ、新型コロナ禍の直後に始めたこともあって外部の方を病院内に入れて大丈夫かと心配する人もいました。今で総計250人ほどのサポーターに入ってもらっていますが、トラブルは一件もない。みんな、とりだい病院のことを考えてくださっている。

サポーターの方には共通のポロシャツを着ていただいています。ポロシャツを着た人が歩いていると、もう“ありがとうございます”以外の言葉はないですよ(笑い)。

【竹田】そういう無私のサポーターの方々の姿を見て、職員の方たちの振る舞いも変わってきますよね。

【武中】(深く頷いて)それが一番大切なんです。カニジルもそうですが、自分たちが見られていると意識することで背筋が伸びる。

【竹田】ぼくが最近よく意識するのは、「関係性の再編集」ということです。既存の関係性における問題を解決し、より良い関係を築き直すためのプロセスです。

とりだい病院は、まさに医療機関と患者さんの関係を見直している。武中先生が掲げている“アワー・ホスピタル”(Our hospital~私たちの病院)にもつながると思います。

【武中】ぼくの定義では、お金を貰うための仕事は“Job”。医療従事者は、Jobではなく、“profession”(専門職)でなければならない。同時に、この病院を好きで誇りを持ってほしい。サポーターの方々と接することで改めてそこに気がつくような気がしているんです。

鳥取大学医学部附属病院の武中篤病院長
写真=七咲友梨
鳥取大学医学部附属病院の武中篤病院長

毎年100人看護師が辞めていく私立病院の採用法

【武中】ところで竹田さんは循環器内科医でもあり、病院マーケティングJAPANという組織を運営されています。これはどのように始まったんでしょうか?

【竹田】10年近く前、日本医療マネジメント学会の病院広報セッションで出会った数人の仲間たちによる勉強会としてスタートしました。病院広報の視点から医療の現場がもっと良くなるんじゃないかっていう想いから始めました。

【武中】組織名は、病院マーケティングジャパン。マーケティングとは、消費者の求めている商品・サービスを調査し、供給する商品や販売活動の方法などを決定することの意味ですよね。

【竹田】狭義のマーケティングとは、商品を効率的に売ることを目的としています。我々は、価値を新しく創造するという広義、本質的な意味合いで使っています。医療の本質は、健康を守り、命を救うこと。それを踏まえた上で、医療の価値を新しく創造したいんです。

【武中】そうした活動で結果を出した例はありますか?

【竹田】急性期の患者をハイボリューム(大量)に受け入れている関東圏の私立病院がありました。そこではハイボリューム故に、医師はどんどん治療したい。そうなると看護師は仕事が増えて大変です。

それで毎年100人ほど辞めていく。福利厚生やいい条件を出してもダメでした。かなりの金額を人材派遣会社に払っていました。そこで我々はエシカル採用に力を入れてはどうかと提案しました。