「労働的な酒席」が日常に
20世紀後半期の社用飲酒のひろがりについては、飲酒動向調査などをつうじて、より判明に捕捉できる。1956年、麦酒酒造組合が行った「ビール需要についての世論調査」(全国の成年者3629人が回答)は、その最も早いものである。調査前日にビールを飲んだという764人に、飲んだ動機をただした設問の結果では、14%が「客を接待して」と答えていた(『ビール需要についての世論調査』)。
内閣総理大臣官房広報室の「酒類に関する世論調査」(1987年実施。全国の20歳以上の2410人が回答)でも、「接待」を「お酒を飲む主な理由」にあげる人びとは多かった。飲酒習慣がある回答者1439人のうち、「仕事上の交際や接待のため」に酒を飲むというのは16%、「管理・専門・事務職」(339人)の人びとに限ると28%にのぼっていた(『酒類に関する世論調査』)。
勤労者たちの余暇が、労働的な酒席でしばしば埋められるのは、21世紀になっても変わらない。2010年、全国の既婚男性1796人を対象とした内閣府の余暇調査を参照すると、勤務後に「仕事に関連しない飲食・飲酒をする」と回答したのは21%、対して「仕事に関連した飲食・飲酒をする」はさらに多く30%にのぼっていた(『「ワーク」と「ライフ」の相互作用に関する調査報告書』)。
企業の交際費はパンパンに膨れ上がった
一方、前世紀後半の社用宴会の多さを何よりよく物語るのは、国内企業が接待にあてた年間総額の巨大さである。『余暇と青少年労働者』(1962年)によると、「企業が経営をスムーズ化するのに支出する〔略〕社用交際費は、昭和三十五年度には全国(資本金二千万円以上の全企業)で一、二〇〇億円にのぼっている。これは、その年のわが国全体のレジャー消費額一兆二千億円の一割に相当する」。
会社法人の交際費は、この後も急テンポで膨張し続けた。国税庁が示した数字によると、1970年度には1兆円台、75年度には2兆円台、80年度には3兆円台に達していた(『税務統計から見た法人企業の実態』など)。
小泉信三が適切に指摘していたように、以上の社用化の進展に伴って、都市社会の酒宴は、ホスト役による富の誇示や消尽の場などではなくなる。むしろ、富のさらなる増殖をめざして、ホスト役が招待客から諸々の便宜を引き出そうとする、生産的な空間へと変貌する。
ここにおいて勤め人たちは、酒の席にあってすら、理性的かつ禁欲的に働く必要にしばしば迫られることになる。労働的な性質をおびるのは、レジャー活動全般にあてはまる傾向ではあるものの、こうした酒宴の純労働的ありようをふまえると、余暇飲酒の労働化は、他の余暇活動と比較しても、その程度がはなはだしかったと思われる。
