失踪者はいったいどこに消えたのか
気になるのは、失踪者の行方である。先に紹介した通り、2024年の失踪者6510人のうち、2951人がどこにいるか分かっていない。
斉藤氏は「ベトナム人の先輩的存在のコミュニティに転がり込んでいる」可能性を指摘する。
「失踪の際の最初のハードルは、住む場所。日本ではただでさえ外国人が家を借りることが難しいが、失踪中の技能実習生にとっては無理同然。(彼らにとって)確実な方法は、知り合いのアパートやブローカーが提供する住居に転がり込むというものだ」
「ベトナム人の不法就労コミュニティとして多いのは、関東では群馬県や茨城県、栃木県など。関西では兵庫県姫路市といったエリアだ。仕事は解体業や農業が多い。また、派遣会社に登録し、化粧品会社や自動車会社の工場で働く人たちも存在する」
「彼らは偽造の在留カードを提出し、複数の派遣会社に登録することでリスクヘッジをしている場合もある。摘発されるまでの期間、可能な限り稼ごう、という狙いだ」(斉藤氏)
「現地のブローカー」に再就職する元実習生
斉藤氏は、最近のベトナム人技能実習生のレベルが低下していることを指摘した。この背景に、「元技能実習生のリクルーター化」という事情が関係していると説明する。
同氏が説明するのは以下のような事情だ。高校卒業後の若い時期を日本での技能実習に費やした元技能実習生は、若さを失い、母国で使えるスキルは身に付かず、日本語もあまりできず、金銭感覚も狂っているので、帰国後に仕事を見つけることは難しい。
職にあぶれた元実習生の多くが、「新たな技能実習生」を募集する、現地のブローカーになっている。ブローカーになった彼らは、人材獲得市場を広げるべく、都市部から農村に裾野を広げる。そこでさらに情報リテラシーの低い「人材」を見つけ、送り出し機関に紹介。手数料を稼ぎ、彼らを日本に送っている、と斉藤氏は分析する。
そもそも、ブローカーと送り出し機関は技能実習生からどれくらいの手数料を受け取っているのだろうか。出入国在留管理庁は、実習生は平均約52万円の手数料を現地の送り出し機関に支払い、来日している、との調査結果を公表している。送り出し機関以外の仲介者には平均33万円ほどだとする。
だがこの数字も、斉藤氏は「本当のところは分からない」という。正直に申告したところで不当に支払わされた金額が戻る可能性は小さい一方、報復などのリスクが大きいからだ。

