宗派の壁を超えた運動

米国の福音派は、神の言葉としての聖書、個人的な回心体験、救いの条件としてのキリストへの信仰、そして布教を重視する、複数の教団、教会、個人からなる宗派の壁を超えた宗教集団であり、運動である。

地元の教会のイベント
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アメリカには、長老派やバプテスト派などの多様な宗派が存在するが、福音派はそうした宗派の壁を超えたものとして理解されるべきだろう。つまり、長老派教団の会員でありつつ、福音派を自認する信者も当然存在する。

その歴史的背景には、19世紀の大覚醒運動、20世紀初頭の原理主義運動、そして1950年代の宗教復興がある。ただし、実際に「福音派」と名乗りだしたのは1940年代で、強力な政治勢力として台頭したのは70年代後半だった。

「古き良き」アメリカ文化を守るため

福音派が台頭した背景には、60年代以降の一連の社会変化がある。公教育の世俗化、公民権運動やフェミニズムが掲げた自由と平等の理念、さらには性的規範の変容やドラッグ文化の拡大は、米国南部・南西部の白人プロテスタント社会を中心に根付いていた伝統的な価値観を根底から揺るがした。これに危機感を抱いた福音派は、「古き良き」アメリカ文化を守るため、次第に政治に参画していった。

この動きを支えたのが、独特の終末論的な世界観である。

終末論とは、世界の終わりに関する宗教的な考えである。具体的には仏教における末法思想やゾロアスター数の最終決戦などがあるが、キリスト教では、イエスの復活と再臨による最後の審判を指す。教会に古代から伝わる『使徒信条』によると、十字架の上で死んだイエスは3日目に復活しており、現在は神の右に座し、いつの日か「生者と死者を裁くため」に再臨するという。

とりわけアメリカの福音派は再臨が近いと信じ、自らを神の側に立つ善の力とみなすことで、世俗化や道徳的退廃という悪に立ち向かう。