芦屋の陰口は芦屋では聞けない
――芦屋の富裕層たちは、近所付き合いでどんなことに気を使っているのでしょうか。
芦屋セレブたちのコミュニティには、鉄の掟があります。それは「芦屋の中で近隣住人の悪口を言わない」ということです。狭い社会ゆえに、どこで誰が繋がっているか分かりません。うかつな発言はすぐに本人の耳に入り、自らの立場を危うくします。そのため、彼女たちは芦屋市内では決して他人の噂話をしないのです。
では、どこで鬱憤を晴らすのでしょうか。彼女たちはわざわざ大阪や神戸まで出向き、物理的に距離を取った場所で、ようやく口を開きます。
「あの奥様、旦那さんが元詐欺師だって知ってるのかしら」
「実は元ホステスらしいよ」
「旦那さんの事業、上手くいってないみたいね」
安全圏で交わされる会話の内容は辛辣です。表面上はニコニコと愛想よく振る舞いながら、腹の底では相手の素性を値踏みし、毒を吐く。芦屋の静寂と秩序は、こうした徹底したリスク管理と、場所を選んだガス抜きによって保たれているのかもしれません。
「本当のお金持ち」の情報はどこにも出てこない
――SNSでは「芦屋在住」を謳っているセレブアカウントも見受けられますが、彼らは実際どんな生活をしているのでしょうか。
SNSを検索すれば、「芦屋セレブ」を名乗るアカウントは無数に出てきます。華やかなパーティ、高級ブランドのショッピング、豪華なランチ。しかし、取材を通じて分かったのは、そうした情報を発信しているのは、あくまで「見せたがり」の一部の人々に過ぎないという事実でした。中には、高齢者の富裕層を狙ったパパ活ならぬ「ジジ活」で資金を得ている女性や、実態の怪しいビジネスで稼ぐインフルエンサーも混じっているのです。
代々続く旧家や、上場企業の創業者一族といった「真の芦屋セレブ」たちは、決して表舞台には出てきません。彼らは国税局の監視や、強盗などの犯罪リスクを恐れています。自らの生活をひけらかすことが、何の得にもならないことを熟知しているからです。
「真の芦屋セレブ」はメディアの取材に応じることもなく、SNSで金持ちアピールすることもありません。彼らは高い塀の向こう側で、ひっそりと、しかし確実に贅沢な生活を享受しています。私たちがSNSやメディアで目にする「芦屋セレブ」は、セレブのなかでもあまりお金を持っていないクラスの人びとか、あるいはフェイクに過ぎないのかもしれません。
「本物」の実態は、依然として厚いベールに包まれたままなのです。



