子どもに本物の読解力をつけさせるには何が効果的か。言語学者の船津洋さんは「『読む』と『理解する』は別の作業だ。読むこと自体は国語力にプラスに働くが、こと理解力に焦点をあてると読書対象の選択に注意が必要になってくる」という――。

※本稿は、船津洋『「地頭力」を鍛える子育て自ら学び、考える力がアップする確かな方法』(大和出版)の一部を再編集したものです。

手の中の開いた本
写真=iStock.com/Andrey Iudin
※写真はイメージです

「読めても分からない」

人の頭の中はブラックボックスです。

深く話せば、ボロを出すかもしれませんが、浅い会話では、その人がどれだけ理解しているのかは全然分かりません。

「はい」と返事をしたものの、こちらの指示とはまったく異なる作業をする部下がいたら大変でしょう。

2018年、『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(新井紀子著・東洋経済新報社刊)という本がベストセラーになりました。この本では、簡単な意味内容が理解できない子がいかに多いのかを、具体例をもって提示しています。

ここで紹介されている子どもたちは、文字を読むことはできているのですが、理解ができていないようなのです。

文字から音声を導いたり、反対に音声の状態の言葉を文字に置き換えたりする能力を「音韻符号化」といいます。「読んでも分かっていない」という子は、「音韻符号化はできているが、心内表象化ができていない」ことなのです。

これは、一体どういうことか、といぶかる向きもあるかもしれませんが、実は多くの日本人は日常的にこの経験をしています。

どのシーンかというと、それは「英語」です。

【図表1】F・S・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー(The Great Gatsby)』の冒頭
F・S・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー(The Great Gatsby)』の冒頭(『「地頭力」を鍛える子育て自ら学び、考える力がアップする確かな方法』(大和出版)P97より)

100語の英文を読んで理解することができるか

大抵の人は、少なくとも中高で6年間、4年制大学に進学した人であれば加えて2年間は英語を学んでいます。ところが日本人の多くは、「英語は読めば理解できるが、しゃべれない」と感じているようです。

しかし、これは誤った理解です。英語を「読めば」の部分までは問題ありませんが、果たして「理解」できるのでしょうか。

図表1の文章は、F・S・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー(The Great Gatsby)』の冒頭を引用します。

これで100語です。日本語では300文字程度なので原稿用紙1枚にも満たない内容です。いかがでしょう。

おそらくあなたも「読める」のではないでしようか。しかし「理解できない」。

日本の子どもたちは、国語でこの状態に陥っている可能性が高いことを、先の書籍は示唆しています。