もしも小学生に理科の面白さを話す機会があるなら、私の理科好きの原点である宇宙の話をするでしょう。誰でも「宇宙の果てってあるんだろうか」とか「宇宙は有限か無限か」とか1度は考えたことがあるはずです。大人でも子供でも共通して面白いと感じる対象がそこにあるのです。

「実験をさせればいい」には違和感

子供を理科好きにするには実験をさせるといいというのが世間の風潮ですが、私には違和感があります。自然科学における実験の重要性は言うまでもありませんが、私自身は実験が大嫌い。楽しさを感じたことは1度もありません。東大の学生時代には、実験の講義の単位を取るのに、データ解析や考察などレポートはいくらでも書くから実験そのものは免除してほしい、と先生に無茶なお願いをしたくらいです。

もちろん、実験を通じて理科に興味を持つ子供も中にはいるでしょう。ただし、それを一般化されては、実験嫌いな人間は困ります。理論の美しさには強く引かれるけれど、実験は嫌いな人間もいるんです。人間の興味の対象は多種多様であり、画一的なものではないのです。

私はこの仕事を天職だと思っています。この仕事は、自分が面白いと思う話に真剣に耳を傾けてもらえる。そして、私の話をきっかけに物理に興味を持つ生徒がいる。こんな幸せなことはありません。もともと予備校の講師は2、3年の腰掛け程度の気持ちで始めましたが、この仕事の楽しさに目覚めてしまった。

生徒にも将来を考えるとき「まずは好きなことをやってみたらどうか」とよく言います。進路選びも就職に有利とかつぶしがきくからという理由で選んで、幸せになれるとは思えない。そういう感覚は私にはありません。興味があること、好きなことが大きな原動力だと思うのです。