“失われた30年”の間に競争力が落ちたと言われる日本企業だが、じつはニッチ市場で世界シェアトップの“小さな巨人”たちは数多くある。これまでに4000社以上を取材してきた『四季報』記者が、無名だけど世界一の隠れた優良企業を紹介する――。

※本稿は、田宮寛之『日本人が知らない‼ 世界シェアNo.1のすごい日本企業』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

世界シェアNo.1の日本企業は、じつはたくさんある

「日本にはGAFAMのような企業がない」
「1989年には世界の時価総額ランキング50位以内に日本企業が32社あったが、今は0社」
「かつて世界を席巻した日本の半導体企業に昔の面影はない」

近年は日本企業について否定的なコメントを聞くことが多い。バブル崩壊後の“失われた30年”の間に、日本企業は本当に競争力を失ってしまったのだろうか。

そんなことはない。世界シェアナンバー1の日本企業は今も多数存在し、日本経済のみならず世界経済を支えている。例えば、花形の基幹産業である自動車業界ではトヨタ自動車が世界シェアトップを誇る。

しかし、その一方で、自動車業界のような巨大マーケットではなく、小規模なマーケットで世界シェアが圧倒的に高く、世界のサプライチェーンで非常に重要な企業が日本にはたくさんある。

こうした世界のニッチ(すき間)分野で勝ち抜き、サプライチェーン上で重要な製品を持つ優良企業を「グローバル・ニッチ・トップ(GNT)企業」と言う。

欧州でピーター・ドラッカーの次に影響力のある経営思想家と称されるハーマン・サイモンは、GNT企業を「Hidden Champions(隠れたチャンピオン)」と呼ぶ。目立たないが技術やノウハウにすぐれており、経済を支える企業という意味だ。

GNT企業が活躍するニッチ分野は市場が小さいので、新規参入が少ない。また、どの業界でもトップ企業には情報や商談が優先的に集まってくる。トップ企業は2位以下企業よりも優位にあるのだ。ゆえにGNT企業はその業界で圧倒的に強く、その地位はなかなか揺るがない。

GNT企業は大手メーカーの下請けからスタートしたケースが多いこともあり、一般消費者向けのBtoC企業ではなく、企業を相手に取引するBtoB企業であることが大半だ。また、グローバル展開していて対象マーケットは海外にあるため、本社を東京や大阪に置く必要がなく、地方に置くケースも多い。

そうした背景もあって、GNT企業は知名度が低く、すぐれた技術とノウハウを持ち業績も良好なのに、人員採用に苦労しているところさえある。

半導体の世界王者TSMCも認める日本のGNT企業

半導体受託製造会社(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は日本進出にあたり、工場だけでなく研究開発のための「TSMCジャパン3DIC研究開発センター(JRDC)」を設立した。TSMCがクリーンルームを備えた研究開発施設を台湾以外に設立するのは初めてのことである。

TSMCは日本国内の半導体関連企業と共同で研究開発を進めているが、この中には信越化学工業、東京応化工業、ディスコ、レゾナック・ホールディングス、イビデンといった企業が名を連ねる。

TSMCがこれらの企業を研究パートナーとして選んだのは、GNT企業だったからだ。

信越化学は半導体ウエハーの製造で、東京応化工業はウエハーに塗る化学薬剤で、ディスコはウエハーを切断したり研磨したりする装置で、レゾナック・ホールディングスは後工程材料で、イビデンは半導体パッケージ基板で世界シェアトップを誇る。

これらの企業は各分野のナンバー1だからこそ、共同研究の機会を得て、他分野のナンバー1企業と交流することができる。そこで得られるメリットは計りしれない。

そして、TSMCとの関係が深まればTSMCからの発注が増えるし、TSMCが日本以外で事業展開するときにはTSMCから提携の声がかかるだろう。ナンバー1企業だからこそ、さらに成長する。

ICパッケージ基板分野で世界シェア50%を誇るイビデン=2024年4月6日、岐阜県
写真=日刊工業新聞/共同通信イメージズ
ICパッケージ基板分野で世界シェア50%を誇るイビデン=2024年4月6日、岐阜県