バーチャルシンガーの初音ミクと“結婚”した男性がいる。現在42歳の近藤顕彦さんは、2018年に初音ミクと結婚式を挙げたことが話題になった。その一方で「気持ち悪い」「人間社会から逃げている」といった強烈な批判を受けた。近藤さんはなぜ初音ミクと結婚し、どのような生活を送っているのか。『無機的な恋人たち』(講談社)でラブドールや架空の存在を愛する人々を描いた、ノンフィクションライターの濱野ちひろさんに聞いた――。(第2回)

「女に飽きた」と語る“ドールの夫”

――女性の等身大人形と暮らす男性たちに、SNSでは厳しい声が目立ちます。濱野さんは男性たちを取材してどのように感じましたか。

前提として、多くのドール・ユーザーからは女性嫌悪を感じたことはありませんでした。もちろん、彼らは取材対象者であり、かつ女性である取材者の私と接しているわけですから、女性に対して礼儀正しく振る舞ってくれたところがあるでしょう。

ただ、なかには1年以上にわたって何度も取材してきたドール・ユーザーもいますし、彼らの友人からも話を聞くことができたので、さまざまな角度から彼らと接していても女性蔑視的な言動に触れることはほとんどありませんでした。

ですが、ワシントンD.Cの周辺に暮らし、女性全般に苦手意識を持っていたロジャーというドールの夫からは、女性嫌悪的な言動がみられました。これまで交際してきた女性に対して「女はどれも一緒だった」と語っており、女性に対して個性や人格を認めようとしない人物だったのです。私は、彼に対してまったく共感できませんでした。彼は、今回の取材で私が共感できなかった唯一の人物です。

取材に応じる著者の濱野ちひろさん
撮影=プレジデントオンライン編集部
取材に応じる著者の濱野ちひろさん

彼の元交際相手であるケイにも取材していますが、ロジャーには女性に対するきめ細かな視点が欠けていると感じました。彼は、「生きている女性はめんどくさい」「女に飽きた」と語っていたことがあり、人形を愛しているというよりも、都合の良い女性像を人形に当てはめているように感じました。

これは、等身大人形と25年間連れ添っている黒人男性のデイブキャットが、人形に対して人格を与え、対等な関係を作り上げるためにさまざまな工夫をしていることと対照的な関係だと感じました。前回の記事でドール・ユーザーにおける「ドールの夫」と「フェティシスト」という二つの特徴について解説しましたが、ひと口にドール・ユーザーといっても人形との関係性は人によって大きく異なるのです。