アメリカで「多様性の推進」への反発が強まっている。早稲田大学教授で政治学者の中林美恵子さんは「アメリカ社会ではマイノリティである在米日本人すら、行き過ぎた平等の推進に違和感を抱いている。理想を掲げた民主党の政策が、反動で差別を許す空気を生んでしまった」という――。

※本稿は、中林美恵子『日本人が知っておくべきアメリカのこと』(辰巳出版)の一部を再編集したものです。

移民やアメリカ合衆国の象徴的な表現
写真=iStock.com/Brad Greeff
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アメリカ在住日本人がこぼした驚きの本音

トランプ大統領が誕生した2カ月後の2025年3月に、西海岸のサンフランシスコに行きました。早稲田大学卒業生の組織である「稲門会」のサンフランシスコ支部50周年記念行事で大学側の挨拶を依頼されたためでした。

その時に驚いたことが二つありました。一つは、「DEI」という考え方に対する評価の変化でした。これまでも触れていますが、DEIとは、「ダイバーシティ」(Diversity)、「エクイティ」(Equity)、「インクルージョン」(Inclusion)の頭文字を取った言葉で、「多様性」「公平性」「包括性」を重視する考え方や取り組みのことです。

サンフランシスコ稲門会のその時の会長は、アメリカ人と結婚している日本人女性で、長期にわたりアメリカで働き、生活をしている方でした。彼女が今住んでいるカリフォルニア州は民主党が強く、彼女も基本的には民主党支持者とのことでした。しかし驚いたことに、その彼女が、現在の民主党の政策については、否定的な思いを抱いていたのです。

たとえば、民主党が推進する「インクルージョン」にはちょっと行き過ぎがあると感じると言うのです。

アメリカでは日本人は「マイノリティ」です。すべての人種を取り込んで平等を推進する「インクルージョン」は「マイノリティ」にとっては望ましい政策のはずです。したがって、マイノリティは圧倒的に民主党支持だった経緯もあります。それでも何事も行き過ぎは解せないと感じるのは、有権者のバランス感覚というものなのでしょうか。

このこと一つを見ても、アメリカにおける民主党と共和党の支持基盤に激烈な地殻変動が起きていることがわかるような気がします。