両親は離婚、乳母からケルト民話を聞いて育つ

そんな境遇の子どもを育ててくれたのは、資産家だった父方の大叔母、サラ・ブレナンです。

キャサリン・コステロという、子ども時代をともに過ごした乳母の影響が、八雲の精神世界を育みました。彼女が夜ごと語ったアイルランドの物語は、ファンタジーを求める子どもの心の糧になります。感じやすい子で、顔のない幽霊を見る、という恐怖体験もしました。この時に心に染みついたイメージは来日後、「むじな」という東京・赤坂で暗躍する、のっぺらぼうを描いた怪談の執筆につながってゆきます。

現在のアイルランド・ダブリン
写真=iStock.com/kickstand
現在のアイルランド・ダブリン(※写真はイメージです)

こうしたケルトの口承文芸と恐怖体験が八雲の鋭い感受性で渦を巻き、後に十八番となる再話文学へと昇華していったのでしょう。そこには幼い頃に生き別れ、思慕の念を募らせた母譲りのギリシャの精神風土に多・神教の世界観が宿っていたこともあるように思います。