では、内部留保を増やしつつ給料も増やしている会社はないのだろうか?
さびしいことに、増額ぶりが目立っているのは、105万円増のみずほ証券(18位)と128万円増の楽天(28位)くらいである。
楽天については、09年度の利益剰余金すなわち累積の内部留保はまだマイナスであるため、内部留保をこれからため込んでいかなくてはならない段階だ。給料を下げれば、内部留保を少しでもプラスに近づけることができるだろう。
にもかかわらず、平均年収がアップしているということは、利益を確保するよりも、社員に給料として支払うことを優先したからと考えられる。
それ以外の企業はどうか。表を見ればわかるとおり、マイナス記号の行列である。三井物産(11位)、オリンパス(27位)、日産自動車(38位)のように、減少額が100万円を超える会社まである。
こう見てくると、今回ランク入りした40社の多くは、従業員の給料を減らしてまで、将来に備えて設備投資を増やしたり現預金に回したりしている会社だといえそうだ。
なかでも一人あたりの内部留保が多い会社は、いわゆる「体力がある」会社である。平時のうちに内部留保をため込んでおけば、会社が将来本当に危なくなったときにも、雇用を維持するだけの余裕はできるだろう。いま給料が減っているのは、それを見越した「貯金だ」と考えることも可能である。
もっとも、従業員の立場からすると、釈然としないものが残るだろう。自分たちの給料は減らされ、一方で会社は必死にため込んでいるのだから、これは利益の詐取ではないかという疑問もわくはずだ。
ところで、内部留保の増加額ランキングを見て驚いたことが2つある。あのトヨタ自動車がランキング外にいることと、とりわけ業績がいいわけではない日本電気(NEC)が1位にきていることだ。
トヨタがランク外なのは「リーマンショック後のたいへんな時期だったから」と、簡単に片付けることもできる。しかし、たとえば10年後に振り返ってみたら、「あのころが転換期だった」ということになるのかもしれない。
同じ自動車業界でも、日産自動車は38位にランクしている。日産は主力小型車「マーチ」の生産を国内からタイ工場へ移すという決断をいち早く下した。ドライでスピード感のある経営が数字を残しているのだ。
一方の日本電気。同社の内部留保が増えた主な理由は、資本準備金約3300億円を利益剰余金に振り替えたことだ。つまり業績とは関係がない。数字を見ていくときには、数字そのものの真の意味をとらえる必要があるということを肝に銘じておきたい。