ほどなく次女のベイビー・ビーちゃんが幼稚園から戻ってきた。シンガポール生まれだ。その後、ランチタイムを挟んで、長女のハッピーちゃんも小学校から戻ってくる。

多民族国家であるシンガポールは、中国系、インド系、マレー系を中心とした複数の民族が共存している。写真はリトル・インディアにて。

子供部屋には英語と中国語で「窓」「ドア」と書いた紙が貼ってある。長女がニューヨークで生まれたときから、中国人のベビーシッターを雇い、中国語だけで話しかけてもらうようにしてバイリンガルに育てあげた。当時ニューヨークではその教育方針が有名になり、多くのアメリカ人がそれに倣ったため、中国系ベビーシッターの時給が上がったという話も聞いたことがある。今も中国人家庭教師とシッターをつけ、2カ国語で生活させている。

午後、2人の勉強の時間。「小蜜蜂――」と自分の愛称を中国語で書くビーちゃんに、家庭教師の先生は「難しい字がちゃんと書けたわね」と中国語で褒める。「私は全然、読めないんだけどね」と、傍らで見ていたロジャーズ氏は苦笑いしていた。

この日は夕方から自宅で会議があった。それなりに仕事は続けているが、今のロジャーズ氏は家族との時間をなるべく取りたいと思っている。朝から晩まで投資漬けだったという30代の頃なら考えられなかった生活だ。

彼は別れ際、娘たちにこう言った。

「さあ、彼女に日本語で『ありがとう』ってお礼を言ってごらん」

今、ロジャーズ氏にとっての1番の投資対象は2人の娘たちだという。多くのお金を残すのではなく、自力で人生を切り開いていける女性に育てることができたなら、自分はすべてを失っても構わないのだと。