先日、アメリカのボストンを訪れた。マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボで、石井裕教授をはじめとする、何人かの研究者と議論する時間を持った。
石井さんたちの口から何度も聞いた1つのキーワードが、「破壊的イノベーション」という言葉だった。1つの技術が、今まで存在した技術や、ビジネスモデル、社会システムに破壊的(disruptive)な影響を及ぼす。
もっとも、破壊といってもそれは「創造」のための破壊なのであり、文明が次のステップに進むためには、必要なことなのである。
ふり返ってみると、このところの人類の歴史は、確かに破壊的イノベーションの連続だった。パソコンの記憶媒体では、ハードディスクの登場によってフロッピーディスクが置き換えられ、今度はフラッシュメモリが取って代わろうとしている。
情報の流通を見ても、アップルのiTunesなどの音楽配信サービスの登場によって、CDが市場で占める割合は低下した。日本でもようやく電子書籍の市場が立ち上がり、紙の本の相対的な意味合いが低下しようとしている。
破壊的イノベーションによって、既存の技術のすべてが消えてしまうわけでは、もちろんない。かつて、映画は娯楽の中心だったが、テレビの登場によって片隅に追いやられた。しかし、映画は産業として生き残り、テレビとのコラボを通して、新たな生命力も得るに至っている。
イノベーションは、1つの生態系の中で起こる。だからすべてが消えてしまうわけではないが、技術革新に破壊的側面があるということは、しっかりと見ていかなければならないと思う。