現在、再生医療の世界ではiPS細胞をめぐり、世界中の研究機関が総力を挙げて開発競争を繰り広げている。その熾烈なレースを戦うために10年に設立されたのが、山中教授を所長とする京大iPS細胞研究所(略称・CiRA)だ。CiRAはフロアに壁や仕切りがなく、スタッフ同士の顔が見渡せる“オープンラボ”が特徴だ。

(ZUMA Press/AFLO=写真)

「これはグラッドストーン研究所の仕組みを参考にしたもので、教授は相当こだわったそうです。設備や専門知識を全員で共有しあって、チームとしての生産性を高めていくという考え方は、ITの世界でいうクラウドの仕組みと同じですね。スタッフがいつでも自由にディスカッションできる気風は、新しいアイデアの源泉にもなります」

徹底的に効率を重視する山中教授の仕事術は、タイムマネジメントという観点から見てもユニークだ。自宅のある大阪から京都への通勤は電車を使い、移動時間をメールの読み書きや英語の勉強にあてる。メディアの取材対応は日程をあらかじめ宣言し、その期間以外は受け付けないことでも知られる。納期を厳守する工場的な発想ともいえるが、いずれも多忙な日々のなかでわずかでも研究時間を捻出するための工夫だ。それと同時に趣味のマラソンも継続しており、毎日昼休みに30分間ジョギングする習慣は欠かさない。

「よく『重要なアイデアは散歩中に思いつく』という話がありますが、体を動かしているときは頭がよく働くし、教授自身も毎日ジョギングをすることの効能を語っています。ただ、教授に関しては走るからアイデアが出てくるというより、走っているときですら常に頭では仕事のことを考え続けているというべきでしょうね」

山中教授は次なる目標として、これまで約1カ月間かかっていたiPS細胞の作製を、3分の1以下の期間に短縮する手法の確立を目指して研究を進めるという。米国で学んだ合理主義と日本的なものづくりの手法をミックスさせた山中式仕事術は、今後さらなる成果を生み出すはずだ。

(小原孝博=撮影 ZUMA Press/AFLO=写真)
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