※本稿は、イタイ・ヨナト『認知戦 悪意のSNS戦略』(文春新書)の一部を再編集したものです。
中国が日本で影響力工作を行っている
日本にとって、台湾は安全保障上のパートナーです。直接的な同盟関係にはないですが、台湾に何かが起こった場合、たとえ日本が望んでいなくても、巻き込まれる可能性が高い。
軍事的な観点から考えると、中国の人民解放軍は、台湾島を包囲するだけで十分だと考えているはずです。
ただ、中国が台湾をいきなり物理的に占領したり、沿岸部に侵攻したりはしなくても、偶発的に戦争が勃発する可能性もあります。中国は東シナ海全体の制海権を獲得しようとしていますが、東シナ海は日本の領海も含まれています。
中国が台湾統一への足がかりとして、日本の最南端の島々をターゲットにしたら、領土・領海をめぐる地政学的な衝突が起こりうる状況になってくる。
中国はそうした事態を想定した上で、日本に対して積極的に影響力工作を開始しているのです。
影響力工作には、三つの戦域があります。それは、自国内(「国内戦線」)、相手国(「ライバル国」)、世界のその他の地域(「第三国」)です。
中国が台湾との紛争をめぐって、日本に大規模な影響力工作をおこなっている狙いを戦域ごとに解説していきましょう。
国際的に日本を孤立させるワケ
①中国国民を日本との戦争に備えさせること。
②日本を弱体化させること(日本が中台間の戦争へ参戦することを阻止するため)。
③国際的に日本を孤立させること(友軍、おもにアメリカ軍を沖縄から追い出すこと。また、日本をアジアから孤立させること)。
なぜ国際的に日本を孤立させたいのか。それは、将来戦争が起こり、日本が参戦を決断した場合、支援や物資の供給面で、日本の思い通りにならないようにするためです。石油や弾薬の禁輸措置がとられたら、日本がどうなるかを想像してみてください。
影響力工作という戦いは、実際の戦争がおこなわれるだいぶ前から始まっています。効果的な影響力工作を実行するためには、かなり長い期間が必要になります。だいたいの目安は最低5年です。
仮に、中国が2027年までに台湾統一をおこないたいと考えているとしましょう。そのための影響力工作に必要な5年という期間を逆算すると、遅くとも2022年には工作を始めていなければならない。そして実際、これから詳しく解説するように、中国は対日工作を展開しており、2022年以前から影響力工作を開始していた証拠があります。

