組織が技と感性を共有するために

今回、社内を案内して下さった副社長の牧さんは、創業者の故・尾櫃三郎社長の娘さんです。もともと玩具業界とは無縁な音楽業界で営業・宣伝業務を担当されていたそうです。実家の町工場に戻られたのは2年前。当時すでに70歳を超えていた父親が守り続けてきた職人集団を、今度は自分が引き継ぎ守りたいと感じたからだそうです。

そうは言っても、ものづくりについては門外漢だった牧さん。そこで社員の皆さんが、ものづくりの技術を牧さんに一から教えてくれたそうです。今や伝統の「スラッシュ成型」もマスターした牧さん。昨年にお父様が亡くなられた後も、ものづくりの技術を身に付けた上で、新しい人脈の開拓や海外イベント出展など、職人たちとは違った自分の得意分野を中心に活躍しながら会社を引っ張っています。

牧さんによれば、オビツ製作所に勤める男性社員は全員、「スラッシュ成型」の技術を体得しているそうです。自社の強みである技術を理解することで、職人の技を社内で継承できるだけでなく、顧客から商品開発の相談を受けた時に的確に対応できるようになります。顧客と対峙するスタッフが技術部門のことも理解できることは、会社の組織全体にとっても一体感が出て非常に強い組織が作れると思えました。

さらに企画開発室長の鈴木さんは、教えることが困難なマニアの感性も、ドールづくりに係わるスタッフに伝授しようとしています。「可愛い」ものを「可愛い」と感じられる感性がオリジナルドールの制作には必要と鈴木さんは言います。多くのドール愛好家に共感を持ってもらう可愛さを表現できるまで、制作過程でとことん「ダメ出し」をするそうです。この厳しい姿勢によって、マニュアル化できないマニアの感性が伝えられるのです。

注文を受けた等身大ドール「オビツ150」は出荷され、体長11cmの新しいオリジナルドール「チビズキン」も発売されました。職人の技とマニアの感性をドールから読み取ることができる通なユーザーたちの評価を、私も楽しみにしています。

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