ほとんどの国民が信じている「クレント」

耳に綿を詰める話はともかくとして、「風邪」という字を知っている我々日本人はこの民間信仰にある程度共感できるだろう。夏にエアコンにずっと当たっていると風邪をひく。しかしその一方で、扇子やうちわ、扇風機で積極的に風を起こす文化もある。また、日本は湿度が高くカビやすいので、部屋に風を通してクレントを発生させることは家の保全に欠かせない。

一方、ルーマニアでクレントは絶対悪であり、百害あって一利なしと考えられている。走行中にタクシーの窓を開けようものなら運転手に「クレントが起こるから閉めてくれ」と叱られる。クレントが起こらぬよう、部屋の換気もしない。どうしても窓を開ける場合は風が通らないように一カ所だけを開ける。片耳に綿を詰める行為も同様である。頭の中にクレントが発生しないように(!)、耳の片側をふさいでいるのである。

耳の片側を白い綿でふさいでいる女の子
写真=iStock.com/Ольга Симонова
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ルーマニアにおいてクレント信仰は邪視と同じくらい、いや、下手するとそれ以上に根強い。風の流れに身をさらすとルーマニア人の多くは本当に体調を崩す。頭、歯、耳、腰が痛くなり、気分が悪くなるのだ。こんな時ルーマニア人は「M-a tras curentul(クレントにやられた)」と言う。