組織人事に詳しい早稲田大学大学院商学研究科教授の大滝令嗣によると、家庭を捨てない限り、今のビジネス社会では女性にハンディがあることは明らかだという。
「組織のリーダーが『すみません、子育てがあるので』と半年も職場を離れるのはありえないでしょう。特に営業などの職種では仕事が自社だけでは完結しない。電話だけではなく顔を見せにいくことで『よく来てくれた』と喜ぶ地方企業は少なくありません」
そのような顧客企業では、「うちの担当を女にさせるのか」という反応も予想される。できる女性の出世はここでも中高年男性に阻まれるのだ。
大滝によれば、テクノロジーの進化によって、iPadで役員会に参加するなど社員が物理的な「会社」から解放されつつある。特に、拠点が世界に点在するグローバル企業では「飲みニケーション」などは通用しなくなっている。
だが、日本企業の大部分においては、法人顧客を含めた大多数が「必ずしも顔を合わせないコミュニケーション」に慣れていない。また、能力ではなく年功序列で出世した人が、「労働時間ではなく成果で部下を評価して昇進させる」のは不可能に等しい。
ファーストリテイリング(ユニクロ)でウイメンズのヒット商品を生む土壌となった「ダイバーシティ・プロジェクト」を担った田中雅子も、大滝の意見に同調する。田中は、ファーストリテイリングからある東証一部上場企業に転身し、執行役員さらには子会社の社長も務めていた。しかし、静岡の実家に住む父親の介護が必要になった。
「ビジネスにプライベートは関係ありません。リーダーであれば容赦なく結果責任を問われて当然です。『すみません、親の介護があるので会議を休みます』なんて言えない。仕事と介護の両立で眠れない日が続いて、組織の中で働くことの限界を感じて辞めました」
現在は経営コンサルタントとして生き生きと働いている田中。仕事も時間も自由に選べる働き方が向いているようだ。