新参者でもリラックスできた「あんぱん」撮影現場
役者として私の本格的な出演は、昨年公開された映画『碁盤斬り』(草彅剛主演)以来。以前テレビドラマは「検察審査会」(高島礼子主演)ほか何本か民放では出ておりますが、NHKの朝ドラは初めてということもありますし、何より、師匠談志をモチーフにした役をワンシーンとはいえ演じるのは無論今後の落語家人生への素晴らしい経験になるものとありがたく頂戴しスケジュールを調整し、万難を排して収録現場に臨みました。
さあ、はじめてのNHK朝ドラ現場です。担当プロデューサー氏にお願いし、他の出演者各位への挨拶も含めて、自分の出ないシーンから見学がてらお邪魔させていただくことにしました。
「本読み」という皆さん普段着のまま台本を片手に顔を突き合わしている中、ほぼほぼ部外者のような私がお邪魔しますと、「八木信之介役」の妻夫木聡さんがなんと、「お初にお目にかかります、妻夫木です」と向こうからお声がけ下さいました。恐縮しきっていると何年か前に一度面識のある「薪鉄子役」の戸田恵子さんがいらして打ち解けた空気感がさらにみなぎりました。このお二人がベテランといった風情を醸し出し、それに呼応する形で「嵩役」の北村匠海さん、「のぶ役」の今田美桜さん、「蘭子」役の河合優実さん、「健太郎役」の高橋文哉さんら若い役者さんたちが安心して演技に集中出来ているという「信頼関係」が手に取るようにわかったものでした。
その日はキャストおよびスタッフ各位と顔合わせと衣装合わせのみでしたが、事前に挨拶を済ますだけでも安心感が芽生えるものでしょう、その数日後の本番当日も皆様のおかげでリラックスして臨むことが出来ました。
カミさん相手に百回以上練習
場所はNHK放送センター105スタジオ。
家屋や雑居ビルなどの大道具を含めたすべてのセットがそこに設えられています。さすが天下のNHKのメインストリームにいるんだなという高揚感が込み上げる中、担当スタッフさんから「◎◎役の立川談慶さんです!」という紹介の声が発せられると、演出部、制作部、撮影部、録音部などなど各方面から同時に一斉に拍手が起きます。
そこからは「みんなでこのドラマを作っているんだ」という自負と一体感、そして「あなたもぼくらの仲間なんですよ」という歓迎と歓待の思いが伝わり、普段の落語や作家の仕事とは違っていて、恍惚とさえしました。
「とにかく、セリフだけは完全に頭に入れて、とちらない!」。
いただいた台本をもとに、それこそカミさんを相手に百回以上は稽古しました。
落語の場合はとちっても、正直自分が恥をかけば済むことですが、「本番でとちれば皆さんに迷惑をかけてしまうことになる」という強迫観念は結構きつく感じましたが、セリフが身体の中に入ってゆくにつれて、むしろほどよいプレッシャーへと変化してゆくのが感じられてきました。

