仕事は「have to」ではなく「want to」で
ワーク・エンゲイジメントは二つの軸で捉えるとわかりやすいと思います。一つは個人のエネルギーがどれだけ充実しているか、もう一つはそのエネルギーがどちらの方向に向いているかです。似た概念に職務満足感やモチベーションがありますが、前者はエネルギーの高さを想定していない点、後者はエネルギーの方向を想定していない点で異なります。
「ワーク・エンゲイジメントが高い人とワーカホリックとは何が違うのか?」と質問されることもあります。確かに一生懸命仕事に取り組むという点で両者は一見、似ていますが、一生懸命さの背後にある仕事に対する考え方は正反対です。英語で表現するとワーク・エンゲイジメントの高い人は”I want to work.”と感じているのに対し、ワーカホリックの人は” I have to work.”と感じているのです。
我々が半年間で両者にどのような変化が起こるか調べたところ、ワーカホリックの人は心身の不調が高まる一方、仕事の満足度は下がっていきました。逆にワーク・エンゲイジメントの高い人は心身の不調はやや下がり、仕事の満足度は高まりパフォーマンスが向上する傾向が見られました。周囲からは一生懸命仕事をしているように見えても、心のあり様で大きな違いが生まれていたのです。
[お知らせ]
2013年7月20日、日本産業精神保健学会と日本ストレス学会の共催で、「これからの職場のメンタルヘルスを考える」という国際学際交流シンポジウムが開催されます。詳しくは、日本産業精神保健学会のサイト(http://www.jsomh.org/)をご覧ください。
島津明人(しまず・あきひと)
東京大学大学院医学研究科准教授
1969年、福井県福井市生まれ。早稲田大学第一文学部、同大学院文学研究科卒業後、ユトレヒト大学社会科学部客員研究員などを経て、2007年より現職。「ワーク・エンゲイジメント」「ストレス対策」「ワーク・ライフ・バランス」をテーマに、企業組織における人々の活性化・メンタルヘルスを研究している。精神保健学、産業保健心理学。共著・単著に、『ワーク・エンゲイジメント入門』(星和書店)、『自分でできるストレス・マネジメント』(培風館)、『じょうずなストレス対処のためのトレーニングブック』(法研)等。