「自民190、民主は230」。刻々と迫る解散総選挙の票読みを自民党選対筋はこう弾く。こうなれば第一党となった民主党を中心とした、連立政権が誕生するのは間違いない。しかし大勝ちすれば、党内の権力闘争を激化させるやっかいな問題も浮上するというのだ。政界の舞台裏をレポートする。
「政権交代確実」の空気の中、友愛内閣はどうなるのか
「衆院解散・総選挙がいつあるのかは、わからない。しかし、結果として、民主党の鳩山政権が誕生するのは確実だ」
こんな声が、自民党内からさえも聞こえてくる。今、永田町の関心は「自民か、民主か」ではなく「民主党はどれぐらい勝つか」に移っている。
民主党が政権を奪取したら具体的にどんな陣容になるのか。そしてどんな政策を行うのだろうか。政権選択選挙を前にそのアウトラインを描いてみる。
衆院選の勝敗ラインとして「216」という数字がある。
衆院定数は480。このうち自民党と民主党以外の政党や無所属で当選する議員が約50人。残る430のうち過半数の216を取ると第一党になる計算だ。第一党になれば、自民党なら公明党、民主党なら社民、国民新の両党らを加えて全体の過半数・241を突破することがほぼ確実。結局「216」を取ったほうが政権をつかむ。
現在、民主党選対幹部は「今なら単独過半数を取れる」と読む。自民党選対筋の予測は「自民190、民主は230」。多少の差はあるが、どちらの読みでも民主党が第一党ラインの216議席を超え、政権を獲得することになる。
しかし、民主党が圧勝する実感が湧かない読者も多いのではないか。今、民主党に追い風が吹いているのは確かだが、4年前の「郵政選挙」のときの小泉純一郎首相、1993年、非自民連立政権が誕生したときの細川護熙首相への国民の期待と比べると“微温”だからだ。鳩山由紀夫代表が遊説すれば、相当の聴衆が集まるが、そこに熱狂はない。
熱狂はないのに圧勝が予測される――。この不可解な現状をひもとくカギは、5月16日に行われた代表選にあると筆者は見ている。代表選は小沢一郎氏に近い鳩山氏と、距離を置く岡田克也氏で争われ、鳩山氏が勝った。世論調査で人気の高かった岡田氏が敗れたときには「これで政権は遠のいた」と、失望の声も上がった。だが、実はこの結果こそ、衆院選に向けてはベターな選択だったのではないか。
小沢氏の長年の政治遍歴を見ると「自分が苦境に置かれたとき、他党を巻き込んだ政界再編を仕掛ける」という法則にぶちあたる。2007年11月、自民党との大連立構想は記憶に新しい。新進党党首のとき橋本龍太郎首相との保保連合を仕掛け、自由党党首のときは、短期間ではあるが自自連立を実現した。
岡田氏が代表になると小沢氏は否応なく非主流派になるから、政界再編に走る可能性が出てくる。このとき、選挙で政権を取る正攻法を突き進む岡田執行部は混乱に陥り、分裂含みの展開となっていただろう。
もう一つ、小沢氏自身の「コアな支持層」も見落とせない。民主党の政党支持率は最近、20%前後で推移しているが、そのうち5%程度は小沢氏個人への支持層と言われる。もし岡田体制ならこの5%は、民主党支持ではなくなったかもしれない。5%という数字は、政権選択を決定づける数字だ。
鳩山氏が代表になったことで、党分裂という最悪のシナリオの芽を摘み、小沢支持票をつなぎ止めた。これが「熱狂なき民主ブーム」につながっている。