「心の窓拭き」で少しずつ自分の“なりたい自分像”明確に

――両校とも素晴らしい大学進学実績を誇っていますが、受験には直接関わりのなさそうな学校行事や芸術教育を重視しているのですね。

【工藤】受験にこそ学校行事や芸術教育が生きると思っています。100人の東大合格者を出した学年では、コロナ禍でも宿泊行事をすべてやった。時期は多少遅れましたけどね。学園祭もリアルでやりました。それができたことで、学校に対する信頼感も育っただろうし、自分たちはできたという自己肯定感も持てた。じゃあ、今度は入試もがんばろうと、粘り強く力を発揮できたのだと思います。

工藤誠一先生
撮影=市来朋久

【高際】そうだったんですね。

【工藤】今の難関国立大学の2次試験には重層的に物事を考える抽象的な思考能力が欠かせません。抽象的な思考力を高めるためには、芸術のような感性を養う豊かな学びが大事なんです。今の時期(1月中旬)、ほんとは高3生は学校に来なくてもいいんだけど、うちの生徒は来るんです。夜の9時まで自習室「ザビエルセンター」を開けているので、そこで友達と勉強している。夕飯は学食で食べたり、ラウンジにはキッチンもあるから、そこで仲間同士で麻婆豆腐を作ったりしている(笑)。

【高際】受験は、実は「周囲はみんなライバルで、孤独な努力を続けていく作業」ではなくて、仲間とともに乗り越えていくチーム戦の要素もあるんです。希望や不安を共有できる仲間がいて、そういう仲間と励まし合いながら一緒にがんばっていける生徒は最後のふんばりが利きます。

【工藤】そうなんですよ。

『プレジデントFamily2025春号』(プレジデント社)
『プレジデントFamily2025春号』(プレジデント社)

【高際】中高生は成長途中なので、自分の未来をしっかりと見通すことはできません。よく窓拭きに例えるんですが、曇ったガラス越しでは遠くは見えないけれど、窓拭きによって少しずつきれいな部分の面積が増えていくと、遠くまで見えるようになります。仲間と一緒に体験したり感動したり、時にはぶつかったり失敗したりすることで心のガラスが磨かれ、よりはっきりと自分の未来を見ることができるわけです。「この先の世界に仲間と一緒に進んでいきたい」「その世界で、自分はこういうふうに生きてみたい」という“なりたい自分像”が明確な生徒ほど、勉強に対するモチベーションも上がり、がんばることができます。

【工藤】人間は誰しも、生まれや環境、才能という部分で、格差のある中で生きています。これら持って生まれたものを“たて糸”だとして、これに、自分で歩む、自分で考える、自分で選択するという“よこ糸”を織り込むことで人生の織物ができる。いかにしっかりとそれを織ることができるかは、先ほどから申し上げている通り、感性を磨いて人間としての土台をしっかりつくることです。