一方、朴陣営に対しては、「TV討論のときにiPadを取り出してカンニングしていた」「庶民をアピールしているが、豪華な結婚式を挙げていた」等々、SNSやブログを通じて一斉に流された。後にソウル大学言論情報学科が、文陣営のネガキャンがあまりに酷く、逆に朴候補に同情が集まったのでは、と分析したほどだ。

カカオトークで拡散した朴氏のカット。1000ウォン札数枚で魚を購入。実際はもっと高価だったため対立陣営は 「庶民の気持ちがわからない」と攻撃。そこで、後から5万ウォンを追加して支払っていた光景の撮影者を探し出して写真を拡散、ネガキャンを沈静化させた。

約40人とおぼしき専門チームを組んだ文陣営の戦略は、あらゆるツールを駆使し、パワーブロガーや文化人を取り込む全方位型。これに対し、同20~30人の朴陣営は情報を絞り、カカオトークを優先的に使って朴候補の弱点を補うイメージ写真を拡散させた。カカオトークとは、日本で若年層を中心に流行っているLINE同様、スマートフォン専用のSNS。情報量は限られるが操作が簡単で、若年層から高齢者まで普及率は圧倒的だ。

「朴候補はお姫様のような冷たい印象があって、特に若い世代には人気がまったくなかった。だから態度を決めかねている中道、無党派層に絞って、徹底的に従来のイメージを覆す戦略に出たのかも」(高藤氏)

当時、朴陣営で中央選代委員会SNS本部コミュニケーション室長を務めていた燦龍煥氏は、ネガキャンの攻勢には、それを正すことで応じたという。

たとえば釜山での遊説の際、朴候補が魚市場で魚を購入し、1000ウォン札を数枚渡した写真を拡散させた。しかしその魚は、実際はずっと高価だった。

「その画像をテレビで流され、『朴は魚の値段も知らない、庶民の気持ちがわからない』と攻撃された」(燦氏)

しかし実際は、所持金のなかった朴氏が、近くにいた支持者に数千ウォン借りてその場で手渡し、後から残り5万ウォンを支払ったのだという。

「5万ウォン支払った場面を、支持者の1人がスマートフォンで撮影していた。それを探し出して、マスコミに送りつけた。効果はてきめん、たった1人の写真で誤解は鎮静化した」(同)