オープンソースAIは世界をどう変えるか
DeepSeek-R1が注目を集めたもう一つの点は、自由度の高いMITライセンスの下で“オープンソース化”されていることだ。ソースコードが公開されているので、誰でも自由に使用、改良、再配布できる。
世界中の研究者や開発者が「R1」を検証し、技術を拡張することで、さらなるイノベーションも期待できる。特にスタートアップ企業は、技術開発の可能性が広がることになる。
日本企業では、セキュリティー上の懸念もあるため、今後数カ月のうちに導入が進むことは考えにくい。しかし、AI技術の導入や活用に新たな選択肢ができたことは間違いない。オープンソースAIの活用が進めば、国内でも開発競争が激化し、企業戦略に変化を迫る可能性はある。
DeepSeekのオープンソース戦略が成功すれば、アジア、アフリカ、中東など「第三極」の国々にDeepSeekのAI技術が広まり、中国の技術覇権は強化されることになる。さらにBRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)などが、米国のLLMから中国のAI技術へ鞍替えすれば、当然、米国の技術覇権は相対的に弱まることになる。
戦略の再考を迫られる「OpenAI」アルトマンCEO
DeepSeekの創業者である梁文鋒氏は、スタートアップ情報サイト「36Kr」の2024年7月のインタビューでオープンソース戦略について、次のように語っている。
「常識を打ち破る革新的な技術の前では、クローズドな環境で守られた競争優位性は一時的なものにすぎない。OpenAIは現在はソースコードを非公開にしたが、競合他社の追い上げを阻むことはできていない」
梁氏は、DeepSeekの親会社であるHigh-Flyerの共同創業者でもある。浙江大学で金融分野の機械学習を研究し、2015年に2人の同級生とクオンツ・ヘッジファンドのHigh-Flyerを設立。ニューラルネットワークを活用して金融・経済を分析するための自然言語処理モデルを構築した。クオンツ投資の会社ではAI開発は副業のようだが、梁氏は「AIが世界を変える」と考えているようだ。
ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によると、DeepSeekがオープンソースのAIモデルで成功したことを受け、OpenAIのサム・アルトマンCEOが自社のAIモデルをオープンソースに変更することを検討しているという。アルトマン氏はRedditのAsk Me Anythingセッションで、OpenAIの開発手法が誤っていた可能性を認め、オープンソース戦略への検討が必要だと述べた。
この方針転換は、OpenAIの競争力維持には不可欠な一方、現在進行中の400億ドルの資金調達に影響をおよぼす可能性があるとしている。同社はまず中核事業での戦略再構築が求められている。