「ワニ脳」は生存するのに欠かせない機能

人間が無意識のうちに呼吸したり、心臓が動いたり、内臓が機能したりするのは、このワニ脳のおかげだ。生存するための基本的な機能は、ここにある。この部位は、無条件で機能しつづける必要がある。

このワニ脳が脅かされたり、過剰なストレスにさらされたりすると、私たちは「逃走」や「闘争」のモードに入る。

私たちは、ワニ脳を守るための行動をとる。仮にヒト脳とサル脳がうまく機能しなかったとしても、私たちは生きられる。でも、ワニ脳なしでは生きていけない。

ワニ脳は胎児のとき最初に発達し、一生を終えるときは最後に機能を停止する。

脳の3つの層はストレスに対しても、酒を飲み過ぎたときと同じ反応をする。ストレスが大きいと、ヒト脳はストレスの霧に包まれる。そうなると、冴えた頭で筋道立てて考えることができなくなる。また、ひどく感情的になったり、取り乱したりする。つまり、サル脳で状況を処理しはじめるのだ。

ストレスや緊張がさらに増すと、サル脳は任務を放棄してしまい、ワニ脳が私たちを支配する。そうなると自分の行動やそのときの状況は、脳の最下層にある最も原始的な領域で処理しなければならない。

ストレスに晒されると、脳はあっさり機能停止する

研究では、ストレスに長期間さらされると脳が損傷することがわかっている。精神科医のロナルド・デュマンの知見によれば、脳の容量が徐々に減り、やがては認知機能や情動の働きにダメージがおよぶ可能性があるという。認知機能とは、知識や思考、記憶、言語、意識をつかさどる働きのことだ。この認知機能のほとんどは、ヒト脳にある。

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脳は人体の指令センターで、そこに3つの部門があると考えてみよう。つまりワニ部、サル部、ヒト部だ。たとえば、私たちがワニ脳に支配されているときは、3つの部門の1つだけが機能していることになる。この場合、ほかの2つの部門は一時的に機能を停止している。

ストレスや疲労がたまっているときに、頭がうまく働かないと感じたことはないだろうか?

ある論文によれば、人体が大きなストレスにさらされると、たとえば何時間も休まずに働きつづけると、脳はあっさり機能を停止してしまうらしい。この現象を観察した研究者の1人が、トルビヨン・アケルステッドだ。

スマホの電池残量が少なくなると、画面にこんなメッセージが現れる。省エネモードに切り替えますか? この場合、あなたは「はい」か「いいえ」で答えるだろう。でも、この省エネモードが脳にもあるのを知っているだろうか?