陰謀論者は「自分が不幸な理由」を日々ネット上で探しさまよっている
――誰もが「陰謀論者予備軍」ということですが、陰謀論にはまりやすい人とは?
陰謀論を信じる人々の大半にとって、陰謀論は人生のほんの一部にすぎない。ケネディ大統領暗殺の真犯人をめぐる陰謀論や、北米の森の中に出没するとされる、全身を毛で覆われた未確認生物「ビッグフット」、UFOなどを信じていても、大抵の場合、人生には影響しない。
だが、思いどおりの人生を送っていなかったり、キャリアで挫折したり、自分が良しとしない方向に世界が変わってしまったと感じたりしている場合は別だ。トランプ氏のスローガン「MAGA(アメリカを再び偉大な国に)」に代表される主張の多くは、「自分の子供時代のアメリカを再び取り戻す」ことを意味する。男女の役割が今よりもっと明確で、自由にジョークを口にできた時代のことだ。
ひるがえって、現在は「キャンセルカルチャー(文化)」の時代だ。昔のようなジョークを言おうものなら、ネットなどでたたかれ、「キャンセル」(注)されてしまう。
注:不適切な発言や行動を批判され、地位や立場を失うという社会的制裁を受けること。
そして、そうした社会の進歩や経済格差に憤懣やるかたない思いを抱いている人々は陰謀論を信奉することで、「現実」に対応する。なぜ自分の身にこうしたことが次々と起こったのかを自分なりに咀嚼すべく、陰謀論に「スケープゴート」を見いだす。
キャリアや人間関係といった社会構造を持たず、時間を持て余していれば、(不思議の国のアリスさながらに)「ウサギの穴」に落ち、陰謀論にはまってしまう。日がな一日、ネット掲示板などで「悪の兆し」を追い求めていると、人生に喜びを感じられなくなる。
「見捨てられた人々のコミュニティー」が陰謀論の温床に
経済的な不満を抱いている白人層が多い地方のコミュニティーでは、陰謀論的な考えが信奉されやすい。置き去りにされた地方の労働者たち。製鉄所や繊維工場が閉鎖され、製造業の仕事が中国やメキシコにアウトソースされてしまった人々。「抑圧された」とでも言うべき町に住んでいる人々。そうした人たちは怒りに駆られ、次のような問いを発する。
「責めるべき相手は誰だ?」「私たちはなぜ見捨てられたのか?」と。自分たちの「アメリカンドリーム」を誰かが奪い去ったと感じているのだ。その張本人は「エリートか? リベラル派か? はたまた、ユダヤ系か?」と。そして、それが陰謀論の温床になっていく。